美術展命の男のブログ

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ルノワール展 山王美術館

sannou renoir chirashi

大阪、難波にある山王美術館で開催中のルノワール展を見てきました。

ホテルモントレ グラスミア大阪の22階にあります。駅から直結で大変便利なところにあります。

sannou museum

美術館は画像の左下のところが入口。

22、23階が吹き抜けになっており、立派な教会があります!作者不詳のものも多いですが、いたるところにオールドマスターや近代の西洋絵画があちこちに展示してあります。これを見るだけでも結構楽しいです。

2010年に「ルノワール・梅原龍三郎展」が山王美術館で開催されたのですが、その時は美術館の存在を知らずに後になって開催を知り非常に悔しい思いをしました。今回のルノワール展はその時より増えたルノワールコレクション26点を公開しています。もう1点花の絵があるようで現在27点を所蔵しているようです。

受付の横のドアから展示室へ入ると目の前に日本画展示室と陶磁器展示室があり、現在は東山魁夷6点、杉山寧2点、堂本印象8点、斉藤真一8点の24点が展示されています。ルノワール展が気になってここはあとから見ました。横を見ると長い廊下の先にルノワールの《裸婦》がお出迎えしていました。

sannou museum renoir
《裸婦》 1918年 油彩・カンヴァス

素晴らしい晩年の傑作です。絵の具を何度も重ねたであろう絶妙な肌の表現が美しいです。オルセー美術館所蔵の大作《浴女たち》に匹敵するといっても過言ではない裸婦の名品だと思います。こちらも迫力のある大きな画面です。究極のルノワールの名品が日本にあるのが誇らしいです。

Renoir and Andrée at the artist’s studio at Les Collettes in Cagnes, 1918
モデルはアンドレー・フーシュリング、通称デデ。様々な作品に登場します。ルノワールの次男で映画監督のジャンと結婚します。 背景に写っているのは山王美術館の作品ですよね!?

《裸婦》の左右には長男のピエールと三男のクロードの肖像が掛けられていました。

sannou museum renoir2
《ピエール・ルノワールの肖像》 1888~1890年頃 油彩・カンヴァス 36.6×35.6cm

sannou museum renoir3
《クロードの肖像》 1908年 油彩・カンヴァス

二男ジャンも加えて三兄弟揃う日が来たら嬉しい。

sannou museum renoir LES AMOUREUX
《恋人たち》 1885年頃 サンギーヌ、白チョーク・カンヴァスに裏打ちされた紙 79.1 X 62.2cm 

こんな作品も所蔵していたことに驚きました。サンギーヌ(チョークのような画材)で描かれた作品です。日本でルノワールの紙作品(デッサン、パステル)を所蔵する美術館はありますが、サンギーヌで描かれた作品はどこかあったかな。非常に貴重な収蔵例です。六本木の国立新美術館で開催中のルノワール展にもサンギーヌで描かれた作品が来日しています。

renoir in the garden
《庭にて》 1885年 170.5 x 112.5 cm 油彩、カンヴァス エルミタージュ美術館蔵
※出品作品ではありません 

《恋人たち》はエルミタージュ美術館に収蔵されている《庭にて》に関連すると思われる作品です。下絵かな?《庭にて》は、旧ソ連がドイツで押収し、エルミタージュ美術館の地下倉庫に半世紀眠っていたという作品の1点です。「エルミタージュ美術館 秘匿の名画」という本で初めてこの絵の存在を知りました。

sannou museum FEMME NUE COUCHÉE SOUTENANT DES FRUITS
《果物をもった横たわる裸婦》 1888年 油彩・カンヴァス  59 × 151cm

今回、新コレクションとしてお披露目されています。描きかけなのがなんとも残念なのですが、作品の前に立ってみると裸婦の光り輝くような色彩の背中が美しいこと!描きかけ部分を補って余りあるくらいでした。全体が描きこまれていたら凄まじい名品になっていたかも。この作品は裸婦の背中を堪能する作品だと思いました。

2015年のサザビーズオークションに登場していた作品でした。$6,000,000 — $8,000,000(日本円 7億1770万円~9億5693円)

その時は、不落札に終わりましたが、紆余曲折?あって山王美術館が取得していたことを知った時はびっくりしました。

来歴を見ると1967年に上野松坂屋、愛知県文化会館美術館、大阪松坂屋、静岡松坂屋、福岡県文化会館で開催されたルノワール展が最後の展覧会出品だったので一般公開は49年ぶり!?ということになります。有り難い!

sannou museum renoir4
《鏡の中の婦人》 1877年

後期作品がメインの山王美術館のコレクションの中で最も早い時期の作品になります。カンヴァスではなくセメントを支持体とするものに描かれています。表面はざらざらでこぼこした感じでフレスコ画のような感じに見えます。シャルパンティエ家の壁画に嵌めこまれていた装飾図の一部だったようです。この作品はかつて縦長の画面で下部に花か植物が描かれていたようですが、切断されてこの状態になりました。縦長の画面の図版を見たことがあるのですが、同一作品だったとは...。切断された下部は今どこにあるのでしょう。

sannou museum TORSE NU
《裸婦》 1915年頃 油彩・カンヴァス 35×28.8cm

この作品は、池袋にあった東武美術館で1993年に開催された「ルノワール展」に出品されていました。山王美術館で見た時はすっかり忘れていて(汗)、後日ルノワール展のカタログを見ていてあ!っと思い出しました。山王美術館で気づけなかったのが悲しい。小品ですけど晩年のルノワールらしい作品です。2015年にサザビーズオークションに登場した作品(£400,000 — £600,000/7769万~1億1653円)この時は不落札)なので山王美術館が取得したのは最近のことだと思います。

sannou museum PORTRAIT DE JEUNE FILLE
《少女の肖像》 1895年頃 油彩・カンヴァス 41.3×32.1 cm

くりっとした目、健康的な丸みのある顔、ボリュームのあるブロンドの髪...描きかけではありますが、魅力的な作品でした。
1975年からカナダのオンタリオ美術館に一時寄託されていたこともありました。そのまま寄贈や購入がなかったから日本で見られているのですね。

sannou museum JOCASTE
左 《イカオステー》 1895年頃 油彩・カンヴァス 96.1×36.4cm
右 《オイディプス王》 1895年頃 油彩・カンヴァス 96.1×36.4cm  ※出品作品ではありません。

丸紅株式会社が所蔵するギリシャ神話に題材を得た装飾画《神殿の舞》とほぼ全く同じ図柄の《イカオステー》が展示されていてびっくり。この2点は揃って1979年に伊勢丹美術館と京都市美術館で開催されたルノワール展に出品されています。2004年のサザビーズオークション、ロンドンにて2点とも競売にかけられています。同じ人に落札されたようで2012年に再びサザビーズオークション、ロンドンに揃って登場しています。

《イカオステー》は予想落札価格£70,000 — 90,000(8560万~1億1005万円)のところ£99,650(1億2185円)で落札され、《オイディプス王》は予想落札価格£60,000 — 80,000(7337万~9782万円)のところ£99,650(1億2185万円)と予想落札価格はそれぞれ違いましたが同価格で落札されています。別々の人に落札されてしまったのでしょうか。《オイディプス王》も揃ってたらより迫力があったでしょうね。

《鏡の中の婦人》 と合わせて装飾家としてのルノワールの仕事を見ることができる作品です。

sannou museum FEMME À LA FENÊTRE AVEC VUE SUR LE VIEUX NICE
《ニースの旧市街を見下ろす窓辺の女性》 1918年 油彩・カンヴァス 56.2×43.2 cm 

sannou museum LA LECTURE, DEUX FEMMES AUX CORSAGES ROUGE ET ROSE
《読書~赤とピンクのブラウスを着た二人の女性》 1918年 油彩・カンヴァス 54×67cm

左側のモデルは冒頭の《裸婦》と同じデデが務めています。ルノワール特有の赤や黄色など暖色系が主役で描かれています。背景の左上の青がいい感じに画面を引き締めています。この作品も名品ですねえ。

山王美術館のコレクションに入る前ですが、この作品は2009~2010年にパリのグラン・パレ、ロサンゼルスのカウンティ美術館、フィラデルフィア美術館で開催された「20世紀のルノワール展」のフィラデルフィア会場に出品されています。「20世紀のルノワール展」はルノワールの晩年に焦点を当てた展覧会でした。山王美術館のルノワールコレクションは晩年の作品、20世紀に入ってからの作品が多いのでプチ20世紀のルノワール展を大阪で体験しているようでした。

sannou museum Jeune roumaine assise
《座るルーマニアの若い女性》 1915年 油彩・カンヴァス 44.5 x 29.9cm

白と青が映えます。この作品は2003~2004年に広島県立美術館と渋谷のBunkamura・ザ・ミュージアムで開催された「モネ、ルノワールと印象派展」に出品されていました。この作品も山王美術館で見た時は過去に見たことを忘れていて後日カタログを見て気づく(笑)。近年市場に出てきたようなので当時は違う所有者だったと思われます。

sannou museum POÊLON ET FRUITS
《鍋と果物》 1885年 油彩・カンヴァス 17.6×38.1 cm

sannou museum REINES-CLAUDES
《西洋すもも》 油彩・カンヴァス 24.3×46cm

晩年のルノワールの描く果物がとても好きです。リウマチで身体が自由に動かなくても精力的に大作にも挑んでいますが、小さな画面は制作しやすかったのでしょう。とんでもない数が世の中に出回っているはず。

sannou museum Sucrier
《砂糖壺》 油彩・カンヴァス

静物画は3点展示されていました。晩年の静物画は小さくてかわいくて家に飾りたくなります。こういった作品は価格帯からもいまだに個人蔵に多くが収蔵されていると思われます。ルノワールの静物画は国内の美術館にはあまりないように思われます。一堂に見てみたいものです。

sannou museum PORTRAIT DE FEMME
《庭の婦人》 油彩・カンヴァス 21×15.2cm

sannou museum PAYSAGE ET CHAPELLE
《チャペルのある風景》 1899年 油彩・カンヴァス

sannou museum Les Martigues
《マルティーグ》 1888年 油彩・カンヴァス 54×65cm

1880年代のアングル風の作風が見られる画面です。これは夕暮れの直前の光景でしょうか。強い日差しが建物に当たり水面にも反射しているように見えました。空もこれから夕方にさしかかるような。朝ではないですよね?そんなことを想像するのも楽しい画面でした。

sannou museum Paysage (Cagnes)
《カーニュ風景》 1910年

sannou museum renoir5
《村の入り口》

pola museum renoir essoyes
《エッソワの風景、早朝》 1901年 油彩・カンヴァス 46.8 x 56.3 cm ポーラ美術館蔵
※出品作品ではありません

《村の入り口》を見た時、ポーラ美術館の作品が頭に浮かびました。比べてみると構図がそっくりです。ポーラ美術館の作品は1901年の作品ですが、もっと前の作品かと思うくらい丁寧に仕上げられています。《村の入り口》は制作年不詳ですがいつ頃でしょうか。

sannou museum Paysage (les arbres)
《風景(樹々)》 1895年頃

人物画、静物画、風景画と一堂に並ぶと圧巻でした。

小さな作品《カーニュのラ・メゾン・ド・ラ・ポスト》 1907年でルノワール展は幕を閉じます。

このころルノワールは郵便局の建物に住んでいたとのことです。手紙を出したり受け取ったり、作品の発送など便利だったでしょうね。

紹介していませんが、他に横たわる裸婦を描いた《水浴みの後》や《屋外で読書する女性》、《金髪の女性の胸像》、《風景》1895年頃などもありました。

ここで紹介した画像の作品の多くがここ4~5年にクリスティーズオークションやサザビーズオークションに登場したものでした。ほとんど不落札に終わっていましたが、他で取引されたのか山王美術館が取得していてよかったよかった。

16点の油彩を持つポーラ美術館のルノワールコレクションが日本で一番ルノワールを持っていると思っていましたが、山王美術館は油彩27点!(今回は26点の展示)公開されているコレクションでは日本一の収蔵数なのではないでしょうか。今後もコレクションが成長していくと思います。

後期のルノワールを存分に堪能することができました。人物、静物、風景と揃えられていたのがとてもよかったです。

収蔵品から藤田嗣治展や佐伯祐三展、横山大観展を開くなどとても気になるコレクションです。他館に貸し出さない、借りないという決まりがあるので制約があるのが少し残念ではありますが、今後が楽しみな美術館です。

山王美術館にぴったりなルノワールの後期の名品が先日サザビーズオークション、ロンドンに登場しました。山王美術館の白眉《裸婦》と同じモデル、デデがモデルを務めています。

FEMME ARRANGEANT DES FLEURS OR LA FEMME AU BOUQUET - ANDRÉE
《花を生ける女性もしくは女性と花束-アンドレ》 1917年 油彩・カンヴァス 54 × 65.5cm
個人蔵

サザビーズオークション、ロンドン  2016年6月21日
印象派&モダンアート イブニングセール

予想落札価格 £800,000 — 1,200,000 (1億2276万~1億8415万円)
落札価格 £1,265,000 (1億9412万円) £1=154円換算

初めて存在を知りました。素晴らしい作品です。ルノワールによる肖像画も残されているコレクターだったモーリス・ガニャンのコレクションにあり、競売に掛けられてもその息子が取得し今日まで親族が所有していたようです。最後に展覧会に出品されたのが1956年ですからオークションによって60年ぶりに人目に触れる機会が訪れたということになります。初めて存在を知るのも納得の知られざる名画です。オークションは終わっていますが、山王美術館に入ってほしい!(笑)

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モネ、ピカソ、モディリアーニ アサヒビール大山崎山荘美術館

asahi beer the never ending journey of creation

アサヒビール大山崎山荘美術館に初めて訪れました。

とっくに閉幕しましたが、開館20周年記念「終わりなき創造の旅-絵画の名品より」を見てきました。

アサヒビール大山崎山荘美術館は1996年4月に開館し、今年で20周年を迎えました。私がこの美術館の存在を知ったのは1998年頃だったでしょうか。所蔵品カタログを入手し掲載されたモネの睡蓮5点を含む8点ものコレクションやピカソ、モディリアーニなどの名品を見て心躍らせたものです。関西には何度か行っていますが、他の展覧会を優先してしまいなかなか行く機会がありませんでした。西洋絵画コレクションがずらりと並ぶ光景が見たかったので今回の展示は見なければと向かいました。約18年越しの願いが叶いました。

初めての地だったので最寄のJR山崎駅より無料の送迎バスに乗りました。美術館への道のりはゆるやかな坂はある認識でしたが、結構な坂だと思いました。重い荷物を持っていたりキャリーケース引いて歩いたらきつそう。帰りは歩いて帰ったのですが、天候が悪いとちょっと危険ですね。転んだらそのまま落ちていく様な坂に思えました。(笑) 

バスを降りても坂を歩いて上ります。旧車庫だったというレストハウスのコインロッカーに荷物を預けていざ美術館へ。

asahi beer sansou

美術館のごあいさつより

アサヒビール大山崎山荘美術館は、関西の実業家・故加賀正太郎氏が大正から昭和初期にかけ建設した「大山崎山荘」を創建当時の姿に修復し、安藤忠雄氏設計の新棟「地中の宝石箱」などを加え、1996年4月に開館しました。

平成のはじめは荒廃していたそうで取り壊してマンションが建つというところに近隣の方が大反対をして京都府や大山崎町から要請を受けたアサヒビール株式会社が一肌脱いだということだそうです。素晴らしい!

まず入ると歴史を感じる重厚なお屋敷って感じで受付とミュージアムショップになっていました。そこを抜けて安藤忠雄氏設計の「地中の宝石箱」へ。

asahi beer chichuu

美術館を紹介するいろんな本でこの光景を見てきました。環境に配慮しその名の通り地中へもぐります。

asahi beer stairs

反対側の階段からの眺め。

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階段の先には凄い緑と池が。

地下の自動ドアを開けて中に入ると円形の展示室があります。そこに今回はモネ4点、ボナール、クレー、シニャック、マルケが掛かっていました。

モネは《エトルタの朝》、2点の《睡蓮》、《日本風の太鼓橋》。

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クロード・モネ 《エトルタの朝》 1883年 65×81cm

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クロード・モネ 《日本風の太鼓橋》  1918-1924年頃 89×93cm 

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クロード・モネ 《睡蓮》  1914-1917年 200×200cm 

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クロード・モネ 《睡蓮》  1914-1917年 150.5×200cm

近寄って見たり離れて見たり時間をかけて楽しみました。マルモッタン美術館所蔵のモネ展もびっくりの素晴らしいコレクションです。

話しずれてモネ展の思い出。モネ展は東京、福岡、京都を巡り、そして現在は新潟県立近代美術館で開催中ですが、私は東京都美術館で鑑賞しました。最後のフロアに《日本風の太鼓橋》シリーズなどジヴェルニーの庭で描かれた作品がずらりと並んでいました。近くで見ると何が描いてあるかわからないくらいの激しい筆致と色彩で描かれていてそのフロアに並んでいる作品がすべてそうなのでこういうモネを見に来たんじゃないと正直思ってしまいました。がこの考えは誤りだったとすぐ気づかされます。

モネ展の会場を2周して閉館間際に最後のフロアに上がると大混雑していた展示室に人がほとんどいない状況になっていました。展示室の入口に立つと10数メートル先に並んだ《日本風の太鼓橋》たちがくっきりと浮かび上がり、他の庭を描いた作品たちも陽光で眩しかったり大気に霞んでたりといったようにまるでそこにモネの庭があるかのような光景が見えてきて「こ、これは」と鳥肌が立つ勢いでした。最初は人だかりが気になって会場全体をじっくり見ようとしていませんでした。がらんとした展示室で遠くから作品を見るとこんなことになっていたのかと凄く感動しました。

太鼓橋はアサヒビールも所蔵してるんだよなぁなどと何点も出ていた《日本風の太鼓橋》を見ながら思っていたのでそれを思い出しながら京都で有り難く鑑賞。

アサヒビールの200×200cmの睡蓮やっぱいい!マルモッタン美術館 モネ展に柳が水面に映り込む200×200cmクラスの睡蓮が出ていましたが、このサイズの睡蓮が何枚も並ぶモネ展を見てみたいです。川村記念美術館で睡蓮の大作がいくつか並んだ展覧会がありましたが、また見たい。国立西洋美術館や地中美術館の睡蓮の大作集結しないかな。

モネコレクション全8点が出ていると勘違いしていてちょっと残念だったのですが。全8点が揃う機会は今秋予定されている「うつくしいくらし、あたらしい響き-クロード・モネ」 で国内のモネコレクションを合わせて約20点のモネ展をやるとのこと。これも見たい!

asahi beer signac
ポール・シニャック 《ヴェネツィア》 1908年 73.5×95.0cm

モネの絵の向かいにはモネの個展を見て画家を志したとも言われているシニャックの風景画。

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ピエール・ボナール 《開いた窓辺の静物》 1934年

90年代に刊行された所蔵カタログに掲載されておらずいつ所蔵されたのかわからないのですが、いつからかネットで画像をみかけるようになってボナールも所蔵しているんだと知りずっと見たかった作品。

卓上の静物、室内、窓から見える船がボナールの美しい色彩で描かれています。ただただ素晴らしい。縦長の画面の人物画はボナールの作品でよくありますが、卓上と室内を描いたものでこういったかなりの縦長作品は珍しいと思います。

国内にボナールの作品は人物、裸婦、入浴、風景、静物など主要なテーマは揃ってますが意外や意外、こういった卓上の静物と室内を描いた作品がなかなかないんですよね。ブリヂストン美術館やメナード美術館に静物がありますが対象にぐっと寄った構図です。愛知県美術館に《子供と猫》というテーブルにつく少女と猫2匹を描いたかわいい作品がありますが、こちらの明るく開放的な作品とは異なった印象の作品になります。国立西洋美術館に1933年頃に描かれた縦長の構図の《花》という作品の隣りに展示したら互いに引き立てあってよさそうです。

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パウル・クレー 《大聖堂(東方風の)》 1932年 20×51cm

クレーの名品も所蔵しているんですよね。長いこと見たかった作品。クレーの点描作品は図版で見ると不思議な感覚を受けることがあります。この作品はオレンジの銅のパネルを細工したように見えたりもします。新潟市美術館所蔵の《プルンのモザイク》は細かいタイルを敷き詰めた作品なのかと思っていたのですが、水彩・グアッシュによる平面作品でした。この作品にもそんな感覚がちょっとあったのですが普通に平面作品でした。不思議な絵。

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アルベール・マルケ 《アルゼの港》 1940年

マルケの作品はいつも曇りのイメージがあります。晴れなのでしょうがどことなく曇りな感じ(笑)。水色が綺麗な作品でした。

地中館から地上へ上がり山荘の中へ戻り、2012年にできた安藤忠雄氏設計による新棟、山手館「夢の箱」へ移動。

asahi beer pond

山荘から睡蓮の池が望めます。右側に写る通路で夢の箱へ。

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エドガー・ドガ 《バラ色の踊子》 1878年

まずはドガのパステルがお出迎え。少し高い位置から踊り子を捉え、下方から強い照明が当てられ胸元に陰ができています。傾げた頬もライトで浮かび上がり顔上方が若干暗めになり、あの怖い顔になりそうな描写が見事に描かれています。背景も丁寧に描かれ質の高い作品だと思います。このレベルのドガの踊り子を持っている美術館は国内にどれだけあるでしょうか。山形美術館の吉野石膏コレクションくらい?

asahi beer modigliani
アメデオ・モディリアーニ 《少女の肖像(ジャンヌ・ユゲット)》 1918年

アサヒビールがこの作品を所蔵していると知った時は驚きました。こんな素晴らしい作品を持っているんだと興奮したものでした。この作品を見るのは2008年に国立新美術館で開催されたモディリアーニ展以来でしょうか。久々!モディリアーニと言えば空虚感というか悲壮感というかそういうのが漂う感じがしてこの作品も瞳がありませんが、なぜだか愛らしさが全面に出ていて健康的なモディリアーニという感じがします。

asahi beer renoir
オーギュスト・ ルノワール 《葉と果実の飾りのある若い裸婦》 1905年頃

asahi beer picasso
パブロ・ピカソ  《肘をつく女》 1902年

貴重な青の時代のピカソ。メランコリックな表情をした女性がうずくまっています。モディリアーニと打って変わってこちらは悲壮感全開。ポーラ美術館やひろしま美術館にある青の時代の描き込まれた作品とは対照的にこちらは薄塗りのような、かすれたような印象がありますがそれもまた独特の画面を作りだしていて前者とは違った魅力的な作品です。

ピカソは《横たわる女》 1950年頃も展示されていてピカソと一目でわかる絵でした。初期と晩年にさしかかるころの作品が対照的で面白かったです。

ピカソの青の時代とバラ色の時代に焦点を当てたピカソ展が愛知県美術館とあべのハルカス美術館で開催されました。両方の会場で見ることができたのは幸せでした。

ポーラ美術館やひろしま美術館、アサヒビール大山崎山荘美術館の青の時代のピカソは当然出ていると思っていたのですが、いずれも所蔵館や他の展覧会への貸出のためピカソ展へは出ておらず、国内の青の時代の油彩は愛知県美術館所蔵の1点だけでした。国内の作品を多く借りて海外からもちょこんと借用だろうと思っていたので国内のコレクションに頼りきらずに開催したことに脱帽しました。キュビスム以降は国内コレクションで固められていましたけどね。

青の時代の油彩6点(大阪展は1点減って5点)、バラ色の時代の油彩3点と国立国際美術館所蔵のグアッシュ、パステルによる傑作《道化役者と子供》がメイン作品で出ていましたが、もし国内にある青の時代の作品も揃っていたら10点近くの青の時代が展示されたのでさらに見応えのあるものになっていたでしょうね。

アサヒビール大山崎山荘美術館への訪問は初めてでしたが、こちらの所蔵品に初めて触れる機会だったかと思う展示が国立西洋美術館でありました。1998年9月15日-1999年3月7日 にかけて「アサヒビール・コレクションの名品 20世紀初頭の人物画」という小企画展が開催されました。その時にモディリアーニ、ピカソ、今回展示されていないルオーの立派なサイズの《貴族的なピエロ》の3点が新館の1階に展示されました。企業からコレクションを借りて長期間の小企画というのは当時画期的だったと思います。国立西洋美術館にはこの3人の作品は所蔵されてはいますが、モディリアーニは紙作品、ピカソの油彩は晩年の作品、ルオーは小品の所蔵なので痒いところに手が届くような展示で常設展に素晴らしい彩りを添えていました。国立西洋美術館は機会があれば今後もこのような...と言っていたかと思いますが、それ以来見たことがありません(笑)。またやってほしい!

asahi beer gogh
フィンセント・ファン・ゴッホ  《農婦》 1885年

ゴッホの初期作品。かなり暗い作品。外のカラスがなんだか意味ありげ?ゴッホの初期作品は結構日本にありますね。吉野石膏コレクション(山形美術館)、諸橋近代美術館、和泉市久保惣記念美術館、ウッドワン美術館、東京富士美術館、光ミュージアム、新潟県立近代美術館に個人蔵の作品が寄託されていたり...。

asahi beer Rouault
ジョルジュ・ルオー 《聖顔》 1929年 46×64cm

2008年に「青のコレクション-ピカソの青、モネの青」という企画があって青の時代のピカソやモネの睡蓮、ルーシー・リーの器などとこちらも展示されました。「青のコレクション」見たかった!絵画や陶芸、染色作品を約100点が展示されたようですが、そんなに青いものがあるのかー。

ルオーはこの他に《聖書の風景》 1956年を展示。

asahi beer chagall
マルク・シャガール

シャガールはこのほかに《ヴィテブスクの上空で》 1914年頃 を展示。

asahi beer Giacometti
アルベルト・ジャコメッティ 《ヴェネツィアの婦人Ⅷ》

藤田嗣治《メキシコの男》 1933年も展示されていました。本当幅広いコレクションです。

絵画だけでなく山荘では陶芸家 バーナード・リーチの水墨画、濱田庄司のやきもの、朝鮮古陶磁の研究家 浅川伯教と思想家 柳宗悦が朝鮮半島や日本各地で蒐集した工芸などが並んでいました。

地中館には風景、山手館には人物が登場する絵といった感じに分かれていました。風景画を見ていろんなところを旅する、ピカソやゴッホの初期作品、モネの最晩年の睡蓮を見て画業という名の旅を見る、いろんな国、ジャンルの作品を見て行くのを「旅」になぞらえた展覧会でした。旅って便利な言葉(笑)。

アサヒビールの西洋絵画コレクションやっぱり凄かった!一挙に並ぶと壮観でした。やっと一堂に見ることができました。多くの作品はいろんな展覧会で見たことがあるものでしたので再会できてとても嬉しかったです。名品でも大作でも重要な展覧会と判断すれば快く貸し出されているという証拠です。素晴らしいことだと思います。西洋絵画コレクションは30点ほどなのでしょうか。決して多いわけではありませんが粒揃いでいつまでも眺めていたい作品ばかりでした。どんどん増えていくといいなあ。

そういえば、2階へ上がる壁面にはコンスタン・トロワイヨン《農耕》が常設されていました。2階のテラスからの眺めも最高でした。

それからミロの彫刻が館内に点在していましたね。緑と水が豊かな庭園にも様々な彫刻がありました。西洋絵画すべてが展示されていたわけではなく他にもにルノワール、ルオー、ヴラマンクの花と風景画などもあるようでいつか見られる機会があればと思います。

asahi beer garden

また来るよー。

丸沼芸術の森所蔵 フランス美術の魅力 朝霞市博物館

monet view at rouelles
クロード・モネ 《ルエルの眺め》 1858年 油彩、カンヴァス 46×65cm 11月3日までの展示

埼玉県の朝霞市博物館で開催中の第30回企画展「丸沼芸術の森所蔵品によるフランス美術の魅力―19世紀の自然描写からエコール・ド・パリまで―」を見てきました。

朝霞市上内間木にある「丸沼芸術の森」の設立30周年、その経営母体の丸沼倉庫45周年、朝霞市博物館の第30回企画展を記念しての開催だそうです。

・印象派から20世紀の初頭の多様な表現
・然への憧れ
・エコール・ド・パリの輝き
・2人の巨匠の版画集 ルオー《ミセレーレ》とシャガール《聖書》

と4章に分けて、フランス近代美術の作品が展示されています。

モネ、ブーダンの油彩画(この2点は11月3日までの展示)、コロー、ドービニーの油彩画、ミレーの木炭画(この3点は11月5日からの展示)、ドガ(木炭画)、ピサロ(水彩画)、モロー(エッチング)、ドニ(鉛筆画2点)、マルケ、ヴラマンク、ルオーの油彩画、キスリング(油彩画、鉛筆画2点)、パスキン(パステル画、鉛筆画、インク画)、ブールデル(彫刻2点)、ピカソ、藤田嗣治、シャガール(4点)、ルオー(4点)の版画、全31点の出品です。

marunuma boudin
ウジェーヌ・ブーダン 《ノルマンディーの風景》 1854~57年 油彩、板 34.5×57.5cm
11月3日までの展示

モネの《ルエルの眺め》と構図が似ている面白い作品。国内にあるブーダンの作品の中でも特に早い時期のもので貴重な作品だと思います。

marunuma millet
ジャン=フランソワ・ミレー 《草刈をする人々》 1852年 木炭・インク、紙 16.5×23cm
11月5日からの展示

marunuma corot
カミーユ・コロー 《ヴィル・ダヴレーの湖畔の朝霧》 1868~70年頃 油彩、カンヴァス 40×56cm 11月5日からの展示

典型的な銀灰色に霞むコローらしい風景画です。日本にあるコロー作品を集めて展覧会が開かれないかなと常日頃思っています。2008年に国立西洋美術館で開催された「コロー 光と追憶の変奏曲」のような初期から晩年まで代表作を散りばめたものは海外から借用しないと成り立ちませんけど、風景画と人物画に焦点を当てたものなら日本にも名品が結構あると思うんですよね。

コローは、贋作が多く、さらにとても面倒見のいい人だったので他人が描いた絵に売れるようサインをしてあげたものもあるとか。コローは2000点の油彩画を描き、そのうち5000点はアメリカにあるとか言われていますね。日本にも...?

初めて存在を知る作品、知ってはいたけれど初めてお目にかかる作品も多々ありました。キスリングの鉛筆画はほとんど見る機会がないですから貴重でした。パスキンの《黒い上着を着た少女》はパステル画なのですが、油彩のあの雰囲気がそのまま表現されていてパステル画と言われてもいつもの油彩画のように見える美しい作品でした。ヴラマンクの《青い花》は、花瓶に活けられた花が激しいタッチの青と白の絵の具で描かれた作品。素敵な作品で長いこと見ていました。

ドニは《果実を運ぶ女たち》と《聖杯》の2点。 前者は、鉛筆、水彩、紙 1892年頃で後者は鉛筆、チョーク、紙 1912年頃

はっきりと作風の違う作品でした。《果実を運ぶ女たち》はナビ派のもつ独特な雰囲気で白昼夢を感じさせるような不思議な絵で、《聖杯》は現実味のある女性を描いた写実的な作品でした。

丸沼芸術の森という名称を初めて認識したのは、現在確認されているモネの最初期の油彩画《ルエルの眺め》を所蔵している所という情報でした。モネの《ルエルの眺め》を初めて見たのは、1994年にブリヂストン美術館で開催された「モネ展」でした。その時はまだ丸沼芸術の森所蔵ではなかったようです。ほどなくして丸沼芸術の森所蔵となり、今日まで様々な展覧会に貸し出され私たちの目を楽しませてくれています。

丸沼芸術の森という名称を知ってはいたものの、どういう所か長らく気にかけたことがありませんでした。公園かなくらいにしか思っていませんでした。芸術家のアトリエ村であり、ワイエスやベン・シャーンなどの豊富なコレクションを持っていることを知るのはそれからずっと後の事でした。

丸沼芸術の森所蔵のドラクロワとモネの作品が、国の登録美術品制度に登録され、2001年から茨城県近代美術館の常設展で公開されました。この制度で公立の美術館を転々とするのかなと思っていたら、しばらくして2006年に埼玉県立近代美術館に寄託され、それ以降主にそこで展示されています。モネ、ドラクロワ、ブーダンが現在寄託されているようです。

丸沼芸術の森の設立者である、須崎勝茂氏の講演会が開かれたのでお話を聞いてきました。

丸沼芸術の森のアトリエ村は、設立者の須崎勝茂氏が陶芸を始めたところ、若い芸術家たちがアトリエがないことに困っていることを知り、場所を提供したのが始まりだそうです。そして本物の作品を見て学んでほしいという思いで作品の収集もされてきたとのことです。

丸沼芸術の森は238点のアンドリュー・ワイエスの素描や水彩のコレクションを所蔵しています。

ワシントン・ナショナル・ギャラリーにアンドリュー・ワイエスの代表作「海からの風」が寄贈されたのを機に2014年、ワイエス展が開催されました。丸沼芸術の森コレクションから《海からの風》の習作など10点を貸し出したそうです。

招待状は来たものの、飛行機のチケットが来ないのでぎりぎりまで待ったけどそのようなものは元々用意されていなかったそうです(!)
貸出料の話もなかったとおっしゃっていました(汗)。お金持ちはとことん社会奉仕してくださいということなのでしょうか。
アメリカ国内の富豪に言うならわかりますが、遠い海外から借りてこの仕打ち(笑)。
美術品を所有するお金持ちも大変だなあと思いました。逆に日本が借りる場合はどうなんでしょうかね。気になります。

今や世界で活躍する村上隆もかつては丸沼芸術の森で制作していました。そんなお話もされていました。

展示会で作品を購入してくださいと言われ、理解できない作品だったようで迷っていたら村上隆から2つの約束を言われたそうです。1つ目は東京藝術大学で当時、日本画にはまだいなかった日本画博士課程になる。見事実現させました。
2つ目は世界の3本の指に入るアーティストになる。とのことでした。その時、頭がおかしいんじゃないかと思われたそうですが、今日の活躍を見ると感動してしまいます。

佐藤忠良の作品を所蔵しているのは知っていましたが、およそ100点ものコレクションを所蔵していることは今回初めて知りました。佐藤忠良の代表作《帽子・夏》の取得時のエピソードが興味深かったです。ある美術商にこの作品を譲って欲しかったそうですが、美術商はブリヂストン美術館に納入したかったそうです。理由は佐藤忠良がブリヂストン美術館で見た佐伯祐三の作品に感動したことがあって、是非そこに彼の代表作を展示させてあげたいとのことでした。2番手でいいからと須崎氏は待ったそうです。結果ブリヂストン美術館は購入を見送ることになり、須崎氏が購入することができたそうです。ブリヂストン美術館がだめだったら資生堂に納入予定だったとのこと。

市から公共の施設に彫刻の寄贈を頼まれたのに、贈ろうとした裸婦像はNGとか座ってる作品じゃなくて立像の方がいいなど色々注文つけられてやれやれといったお話も面白かったです。

定員50名でしたが、それを上回るほぼ満席で大盛況でした。地元の方たちと思われる方が押し寄せ真剣に話を聞かれていました。地元で愛されてるのがよく伝わってくる方でした。笑いが絶えない講演会でとても楽しい1時間でした。

朝霞市博物館と丸沼芸術の森は約3kmほどと近い距離にあります。時々、丸沼芸術の森コレクションの展覧会を開いてくれます。無料で見られるのも嬉しいですね。丸沼芸術の森は常設展示がないので今回のように西洋絵画をまとめて見られる機会は珍しいと思います。お近くの方もそうでない方も是非この貴重な機会をお見逃しなく。朝霞を考古・歴史・民俗・美術工芸の4分野で紹介する常設展示もご覧いただけます。エントランス、通路からガラス越しに見える屋外水車と池も見所の施設です。

asakashi museum

asakashi museumb


第30回企画展「丸沼芸術の森所蔵品によるフランス美術の魅力―19世紀の自然描写からエコール・ド・パリまで―」

会場 朝霞市博物館
会期 10月10日(土)~11月23日(月・祝)
開館時間 午前9時~午後5時 
入館料 無料
会期中の休館日 月曜日、祝日の翌日
交通 東武東上線朝霞台駅・JR武蔵野線北朝霞駅から徒歩15分

朝霞市博物館
〒351-0007 埼玉県朝霞市岡2-7-22

ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 三菱一号館美術館

intimate impressionism

三菱一号館美術館で開催中のワシントン・ナショナル・ギャラリー展を見てきました。
2月7日(土)~5月24日(日)と3か月を軽く超える会期の長い展覧会でしたが、間もなく閉幕を迎えます。

日本でのワシントン・ナショナル・ギャラリー展はこれで3度目となります。

1度目は1999年、東京都美術館、京都市美術館で開催。日本初のワシントン・ナショナル・ギャラリー展で、印象派・ポスト印象派を中心にルドン、ボナール、ヴュイヤール、ピカソ、ドランまでと19世紀後半から20世紀の初頭までに焦点を当てた展覧会でした。さらにフェルメール《手紙を書く女》、ティツィアーノ、エル・グレコなどのオールド・マスターズ8点が特別展示されました。油彩全85点。この時はまだフェルメールブームの前で《手紙を書く女》は、特別なコーナーを設けることなく他の作品たちと普通に並んでいました。チラシにはモネの絵が大きく使われ、フェルメールは小さくおまけみたく掲載されていました。現在ではまずありえない構成かと思います。フェルメールを借りられるならきっとそちらを主役にして他の展覧会を企画するでしょう。

2度目は2011年、国立新美術館、京都市美術館で開催。記憶にまだ新しい展覧会です。2度目の展覧会は、印象派・ポスト印象派に焦点を当てた物でした。ワシントン・ナショナル・ギャラリー本館である西館を改修中により実現したものです。東京での展示の前にヒューストン美術館で公開された物に日本では素描、水彩、版画を27点をプラスした全83点が展示されました。ワシントン・ナショナル・ギャラリーは、最重要作品を「常設コレクション作品」に指定しており、12点以上館を離れてはならない不文律があります。この時は9点もが貸出されたことは驚きでした。エドゥアール・マネ 《鉄道》、ピエール=オーギュスト・ルノワール《踊り子》、ポール・セザンヌ 《赤いチョッキの少年》、フィンセント・ファン・ゴッホ《自画像》など傑作中の傑作がいくつも並び、1度目をはるかに超える質といっていいもので今回を含む3度中、最も質が高い物でした。

そして今回は、印象派・ポスト印象派をメインにしている点は過去の2度の展覧会と同じですが、趣が異なったものとなっています。ワシントン・ナショナル・ギャラリーの創設者アンドリュー・W・メロンの娘、エイルサ・メロンのコレクションを中心に構成されたもので、本展の特徴は、身近に置くために集められ、画家にとって身近なモチーフが描かれ、家族、友人、モデルなど近い関係性から、「親密さ(intimate)」を感じられる展覧会です。

この展覧会は、2013年から世界巡回をしており、カピトリーニ美術館(ローマ)、リージョン・オブ・オナー美術館(サンフランシスコ)、マックネイ美術館(サンアントニオ)、そして三菱一号館美術館、その後、シアトル美術館で開催されます。ローマと東京以外はアメリカ国内の巡回です。よくぞ日本に来てくれました!

日本初公開38点を含む68点。コンパクトで日本初公開作品の方が多い展示です。

1 戸外での制作
2 友人とモデル
3 芸術家の肖像
4 静物画
5 ボナールとヴュイヤール

の5章で構成。5章を除き、風景、人物、静物といった具合に分かりやすい展示です。

1. 戸外での制作

本展は、エイルサ・メロンのコレクションを中心にしていますが、弟のポール・メロンとその妻のコレクションや他コレクターの作品も並びます。姉弟が収集したウジェーヌ・ブーダンが8点も展示されています。ワシントン・ナショナル・ギャラリーは油彩だけでも24点を収蔵しており、アメリカ1のブーダン・コレクションを誇ります。

boudin Washerwoman near Trouville
ウジェーヌ・ブーダン 《トゥルーヴィル近郊の洗濯女》 1872年頃/1876年
油彩・板 27.6 x 41.3cm ポール・メロン夫妻コレクション

モネに屋外で絵を描くことを教えたことで有名なウジェーヌ・ブーダン。コローから「空の王者」と賞賛されたことに納得の空の描写です。マグリットの雲も好きですが、ブーダンのこの雲の描写、お見事としか言えません。

manet at thhe races
エドゥアール・マネ 《競馬のレース》 1875年頃 油彩・板 12.6 x 21.9cm
ワイドナー・コレクション

初めて知る作品がいくつもあり、この作品もそうでした。1905年にロンドンで展示されたのを最後に、1942年にナショナル・ギャラリーに寄贈されてから初めて館外へ出るということで納得です。馬や騎手たちの躍動感ある様々な動きが本当に手前に向かって疾走して来ているようでとても小さな作品なのに迫力のある絵でした。鮮やかな素早い筆致に群衆も点で表現され、印象派ではないマネですが、立派な印象派のマネ作品だと思いました。

2. 友人とモデル

renoir Woman with a Cat
ピエール=オーギュスト・ルノワール 《猫を抱く女性》 1875年頃
油彩・カンヴァス 56 x 46.4cm ベンジャミン・E・レヴィ夫妻寄贈

1999年のワシントン・ナショナル・ギャラリー展の際に、展示を強く希望していた作品でした。遂に初来日。3度目の正直で16年目でようやく出合うことができました。モデルはルノワールのお気に入りで10点以上の作品に登場するニニ・ロペス。1874年の第1回印象派展に出品した《桟敷席》 コートールド・ギャラリー蔵のモデルも務めています。

間近で見ると絵の具のかすれ具合が結構凄くて女性の顔がごつごつしています。猫の顔にも沢山のタッチで色んな色の絵の具が置かれています。作品から2mほど離れて見ると女性の顔のごつごつしていた絵の具やかすれ具合が溶け込み美しい透明感のある肌となり、猫に置かれた沢山のタッチがもふもふした感じになって生き生きとした画面になっていました。猫の表情がいいですね。この展覧会には人物が描かれた作品がいくつも登場しますが、人へのまなざしがとても現代的で昔の人を見るといった感覚がなく、まるで現代の人々を見ているかのような錯覚を覚えました。

ukiyoe cat
参考画像
左:歌川国芳 《山海愛度図会 七 ヲゝいたい 越中滑川大蛸》 嘉永5年(1852) 
右:月岡芳年 《風俗三十二相 うるさそう》 明治21年(1888)

ルノワールは浮世絵の猫を目にしたのでしょうか。浮世絵はとてつもなく過去のものに感じる...。

renoir madame henriot
ピエール=オーギュスト・ルノワール 《アンリオ夫人》 1876年頃
油彩・カンヴァス 65.8 x 49.5cm
アデル・R.・レヴィ基金

ルノワールが描いたアンリオ夫人は11点あり、唯一本人が所蔵していた作品です。しっかりと描かれた顔に対してドレスは空気に溶け込むかのような描写です。何て美しいのでしょうかこの作品は。いつまでも見ていられます。《アンリオ夫人》は5度目の来日となります。幸運なことに全て見ることができています。傑作は何度見てもいい。

1994年 『1874年 パリ「第1回印象派展とその時代」』
国立西洋美術館

1999年 『ルノワール-近代の眼』
川村記念美術館、宮城県美術館、北海道立近代美術館

2010年 『ルノワール-伝統と革新』
国立新美術館、国立国際美術館

2011年 『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展  印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション』
国立新美術館、京都市美術館

2015年 『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 アメリカ合衆国が誇る印象派コレクションから』
三菱一号館美術館

1994年の『1874年 パリ「第1回印象派展」とその時代』は、クロード・モネ《印象・日の出》やエドゥアール・マネ 《鉄道》など素晴らしい作品を迎え、当時正しい絵画であったアカデミスム作品などと印象派誕生の時代を考察する非常に内容の濃い展覧会でした。昨年、国立新美術館で開催されたオルセー美術館展は傑作ばかりで本当によい展覧会だったのですが、「名品展」といった感じだったので、1994年のような構成だったらなぁと思ったものでした。《アンリオ夫人》は、1999年から2010年まで11年も来日することはありませんでしたが、2010年から2015年までの5年間で3度も来日!こんなスパンで合えるなんて嬉しすぎます。次の来日はいつになるのでしょうか。

corot the artists studio
左:ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 《芸術家のアトリエ》 1868年頃
油彩・板 61.8 x 40cm ワイドナー・コレクション
参考画像
右:ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 《画家のアトリエ》 1873年頃
油彩・カンヴァス 63 x 42cm ルーヴル美術館蔵

ワシントン・ナショナル・ギャラリー展を見てから国立新美術館で開催中の「ルーヴル美術館展」へ行ったらそっくりな作品があってテンションが上がりました。何点かヴァリアントがある作品です。同時に来日しているというのはとても面白いですね。ワシントンの作品の方が丁寧に仕上げられているように感じました。

またルーヴル美術館展にマリヌス・ファン・レイメルスウァーレに基づく 《徴税吏たち》 16世紀 が出品されていましたが、全く同構図の作品がBunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「ボッティチェリとルネサンス フィレンツェの富と美」にマリヌス・ファン・レイメルスウァーレに基づく模写 《高利貸し》 1540年頃 が出品されているのも興味深かったです。質はルーヴルの方が格段に上でしたが。関連のある作品が同時期に開かれる関係のない展覧会で披露されるととても得した気分になれます。

3. 芸術家の肖像

アンリ・ファンタン=ラトゥール、エドガー・ドガ、エドゥアール・ヴュイヤールのとても小さなサイズの自画像とゴーギャンの自画像、マネによる肖像作品、ルノワールによるモネの肖像の6点による章です。

gauguin Self Portrait Dedicated to Carrière
ポール・ゴーギャン 《カリエールに捧げる自画像》 1888年頃又は1889年 油彩・カンヴァス 46.5 x 38.6cm
ポール・メロン夫妻コレクション

左上に「友人カリエールへ」と書かれた、画家・ウジェーヌ・カリエールに贈った作品です。ただ自身を描いただけではなく人へ贈る為に描いた自画像というのは本展のテーマ、親密さ(intimate)に相応しい作品です。ブルターニュの民族衣装を着て描いています。

1888年は、ゴーギャンとゴッホが短い共同生活を送った年です。東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館に所蔵される《アリスカンの並木路、アルル》は、アルルでの共同生活の初めに描かれた作品です。この自画像とは色彩表現が少し違う印象を受けるので共同生活はとっくに破綻したあとにこの作品は描かれた作品でしょうか。

この秋、汐留ミュージアムに巡回してくる「ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち」にぴったりな作品なので会期が重なっていたらよかったなぁなんて。

4. 静物画

マネの素晴らしい筆さばきの《牡蠣》、マネと言われたら信じてしまいそうな大胆な描写のアントワーヌ・ヴォロン《バターの塊》、セザンヌ、ラトゥール、ルノワールらの全く違った静物画の表現を見ることができます。

cezanne Still Life with Milk Jug and Fruit
ポール・セザンヌ 《牛乳入れと果物のある静物》 1900年頃 油彩・カンヴァス 45.8 x 54.9cm
マリー・N・ハリマン記念 W.エーヴレルハリマン財団

ちゃぶ台返しの瞬間のようにテーブルが傾き、皿と果物が手前にずり落ちてくるような視点でありながらグラスは正面から見ているよう。1907年にはピカソが《アヴィニョンの娘たち》を描き、ブラックもそれに続きキュビスムを探求し始めます。様々な視点が組み込まれたセザンヌの作品は、20世紀美術最大の革新と言われているキュビスム誕生を導いたのです。それをやったピカソもとても凄いのですが、そのヒントを出したセザンヌは偉大だなぁと思いました。

5. ボナールとヴュイヤール

ボナールとヴュイヤールコレクションは、エイルサ・コレクションの真骨頂といってもいいのではないでしょうか。展覧会の「親密さ」というテーマも恐らくアンティミストである彼らの作品から取り、構成されていったのでしょう。

vuillard Woman in Black
エドゥアール・ヴュイヤール 《黒い服の女》 1891年頃 油彩・厚紙 26.8 x 21.9cm
エイルサ・メロン・コレクション

奥行とか立体感は皆無で色の面だけで構成されています。具象のぎりぎりまできています。テーブルに乗っているのは犬?猫? かわいいです。

bonnard the cab horse
ピエール・ボナール 《辻馬車》 1895年頃 油彩・板 29.7 x 40.0cm
エイルサ・メロン・コレクション

女性と馬の色彩は固有色を表現しているようにもただのシルエットを描いているようにも見えます。日本かぶれのボナールですからきっと浮世絵に出てくるシルエットを頭に浮かべながら描いたことと思います。

ボナールとヴュイヤールのアンティミスムの作品は、非常に似通ったものがあり、冷静に見ればわかるのですが、どちらの作品であるのか迷うことがあります。印象派の黎明期のモネ、ルノワールまたはモネ、シスレーの作風が非常に近かったり、ピカソとブラックのキュビスム作品が見分けがつかないといった具合に新たな表現を模索している仲間は一時的にぎりぎりまで接近するのですね。そんなことに改めて気づかされました。

vuillard Landscape of the Ile-de-France
エドゥアール・ヴュイヤール 《イル=ド=フランスの風景》 1894年頃 油彩・厚紙
19.7 x 25.3cm
ポール・メロン夫妻コレクション

会場で一目惚れした作品。小さくてとてもかわいい風景画です。建物と塀、柵越しに丘の畑と空が広がります。異なった色の面で作られる畑が心地よいリズムを作っています。ふと家に飾りたいと思った絵です。

pissarro Paysage, la moisson, Pontoise
参考画像
カミーユ・ピサロ 《ポントワーズの収穫風景》 1873年 油彩・カンヴァス 65 x 81cm 個人蔵

 《イル=ド=フランスの風景》を見た時、ピサロの早い時期の作品を思い浮かべました。《ポントワーズの収穫風景》は、緑1つとっても様々な緑で描かれていて凄いなと思います。日差しで照らされた緑や土のこの明るさがいいのです。セザンヌが憧れたピサロがここにあります。国立西洋美術館に入ってほしいと願うくらい好きな作品です。

このピサロ作品は10年前にオークションに登場しましたが、現在どこにあるのでしょうか。

クリスティーズオークション、ニューヨーク  2005年11月1日 印象派&モダンアート イブニングセール

予想落札価格 $4,000,000 - $6,000,000 (4億7200万~7億800万円)
落札価格 $5,168,000 (6億980万円) $1=118円換算

た、高い。この時期のピサロの作品は後の筆触分割の作品より少ないわけで独特な味のある画面も人気で高騰するのでしょうね。

3度開かれたワシントン・ナショナルギャラリー展ですが、なんと皆勤賞の作品が4点あります。

monet Argenteuil
クロード・モネ 《アルジャントゥイユ》 1872年 油彩・カンヴァス 50.4 x 65.2cm
エイルサ・メロン・コレクション

sisley Boulevard Héloïse, Argenteuil
アルフレッド・シスレー 《アルジャントゥイユのエロイーズ大通り》 1872年 油彩・カンヴァス 39.5 x 59.6 cm
エイルサ・メロン・コレクション

manet A King Charles Spaniel
エドゥアール・マネ 《キング・チャールズ・スパニエル犬》 1866年 油彩・リネン 46 x 38cm
エイルサ・メロン・コレクション

manet oysters
エドゥアール・マネ 《牡蠣》 1862年 油彩・カンヴァス 39.2 x 46.8cm
アデル・R.・レヴィ基金

モネ、シスレー、マネ2点の計4点が毎回来日しています。〇〇美術館展で毎度出席する作品があるのはとても珍しいことだと思います。4度目の機会があったらまた来日する作品はこの4作の中にあるのでしょうか。モネの《アルジャントゥイユ》がまた来そうな予感。ワシントン・ナショナル・ギャラリーは貸出不可の作品が結構あり、不幸なことに画家の代表作、館を代表する作品がそれだったりします。

2011年のワシントン・ナショナル・ギャラリー展に並んだモネの 《日傘の女性》、《ヴェトゥイユの画家の庭》、《太鼓橋》や他のモネ作品の多くも1999年に来日した物と同じでした。これは所蔵品が少ないのではなく、チェスター・デールコレクションという印象派の傑作を多く含むコレクションを館外に出せないからでした。チェスター・デールコレクションには《ルーアン大聖堂》、《国会議事堂》、《ウォータールー・ブリッジ》などいくつも名品がありますが門外不出です。他のコレクションにも名品はもちろんありますが、その中からチョイスしようとすると似たようなものになってしまうのでしょうか。

3度のワシントン・ナショナル・ギャラリー展や他の展覧会で今までに18点のルノワールが来日したようで館外へ貸し出すことができるルノワールの名品はほぼ来日を果たしたようです。今回のルノワールの日本初公開作品は、《猫を抱く女性》、《クロード・モネ》、《花摘み》と3点もありました。あと日本に来ることができて見るべきものは、縦長の対作品《魚籠を持つ少女》と《オレンジの籠を持つ少女》だけです。他は習作作品になります。下の傑作たちは決して日本へ来ることはないチェスター・デール・コレクションです。ルネサンスから印象派、20世紀まで傑作がこれでもかと含まれたコレクションです。ルノワールの作品だけ見てもその質がわかると思います。これがモネ、ドガ、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、ピカソ、マティス、モディリアー二など同じように傑作だらけなのです。

washington renoir Chester Dale Collection

上段
《じょうろを持つ少女》 1876年/《輪を持つ少女》 1885年/《ダイアナ》 1867年
中段
《オダリスク》 1870年/《マリー・ミューレ》 1877年
下段
《シコット嬢》 1865年/《シュザンヌ・ヴァラドン》 1885年頃/《髪を整える裸婦》 1893年

《じょうろを持つ少女》、《ダイアナ》、《オダリスク》はいつか是非見たい作品です。

傑作、代表作を中心に展開する名品展ではありませんでしたが、コレクターが身近に置いた小さな作品たちは親しみを覚えるものが多く、小さな部屋が続く三菱一号館美術館の展示室にもぴったりでした。ワシントン・ナショナル・ギャラリーのコレクションの新たな一面を知ることができた展覧会であったと思います。

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東京駅の反対側にあるブリヂストン美術館がビルの建て替えの為、5月17日(日)をもって長期休館に入ります。しばしの別れを惜しんで駆け付けた人たちの列が外にまで伸びるようになっています。休館前の最後の展示として「ベスト・オブ・ザ・ベスト」と称して名品が一堂に並んでいます。両展をはしごをしてみるとブリヂストン美術館の印象派、ポスト印象派の名品たちがワシントン・ナショナル・ギャラリー展の各章に見事に綺麗にハマるので展示中のブリヂストン美術館の所蔵品をワシントン・ナショナル・ギャラリー展の各章に当ててみました。

1. 戸外での制作

bridgestone boudin pissarro monet
ウジェーヌ・ブーダン 《トルーヴィル近郊の浜》 1865年頃 油彩・板 35.7×57.7cm
カミーユ・ピサロ 《菜園》 1878年 油彩・カンヴァス 55.2×45.9cm
クロード・モネ 《アルジャントゥイユの洪水》 1872-73年 油彩・カンヴァス 54.4×73.3cm

《アルジャントゥイユの洪水》は、ワシントン・ナショナル・ギャラリー展に出品されている《アルジャントゥイユ》と似た位置から描いた作品です。遊歩道は水没し、一見同じ景色に見えませんが、遠くに同じ建物や煙突が見えています。他にも季節や時間を変えて描いた作品を残しています。

2. 友人とモデル

bridgestone renoir caillebotte manet
ルノワール 《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》 1876年 油彩・カンヴァス 97.8×70.8cm
ギュスターヴ・カイユボット 《ピアノを弾く若い男》 1876年 油彩・カンヴァス 81.0×116.0cm
エドゥアール・マネ 《メリー・ローラン》 1882年 パステル・カンヴァス 41.6×37.1cm

《ピアノを弾く若い男》は、カイユボットの弟マルシャルをモデルに描いたものだったり、マネ晩年の愛人を描いたメリー・ローランの肖像に親密さを見ることができます。

3. 芸術家の肖像

bridgestone degas manet cezanne
エドガー・ドガ 《レオポール・ルヴェールの肖像》 1874年頃 油彩・カンヴァス 65.0×54.0cm
エドゥアール・マネ 《自画像》 1878-79年 油彩・カンヴァス 95.4×63.4cm
ポール・セザンヌ 《帽子をかぶった自画像》 1890-94年頃 油彩・カンヴァス 61.2×50.1cm

レオポール・ルヴェールはドガの画家仲間で印象派展に参加した画家ですが、1点も作品が残っていないとのことです。どんな作品を描いていた画家なのでしょうか。

マネの《自画像》は2点しか存在が確認されていません。こちらは全身像、もう1点はパレットを持った半身像になります。

出光興産創業者である出光佐三のコレクションにセザンヌの自画像がありましたが、2003年に売却されたのでブリヂストン美術館のセザンヌの《自画像》は国内では唯一の所蔵といっていいでしょう。

4. 静物画

bridgestone gauguin bonnard cezanne
ポール・ゴーギャン 《馬の頭部のある静物》 1886年 油彩・カンヴァス 49.0×38.5cm
ピエール・ボナール 《桃》 1920年 油彩・カンヴァス 36.0×38.1cm
ポール・セザンヌ 《鉢と牛乳入れ》 1873-77年頃 油彩・カンヴァス 20.0×18.1cm

ゴーギャンの《馬の頭部のある静物》は、当時最新の技法であった点描で描かれています。ブリヂストン美術館は、新印象派の画家シニャック、点描を通過した画家であるマティスとモンドリアンのその作例も所蔵していて点描の系譜の一面を見ることができます。

5. ボナールとヴュイヤール

bridgestone vuillard bonnard
エドゥアール・ヴュイヤール 《鏡の前》 パステル・紙 1924年頃
ピエール・ボナール 《灯下》 1899年 油彩・紙 42.5×50.4cm
ピエール・ボナール 《ヴェルノン付近の風景》 油彩・カンヴァス 1929年 63.4×62.4cm

ボナール《灯下》は、身近のありふれた生活や家庭内の情景を描くアンティミスムそのものの作品で、親密さという言葉がぴったりです。その後の色彩が開花したボナールも所蔵していて好対照なコレクションです。

ブリヂストン美術館はどんな美術館に生まれ変わるのでしょうか。2020年のオリンピック前には再開される予定のようですが、世界中から日本に来る人たちに是非このコレクションを見て行ってもらいたいですね。

ピカソと20世紀美術 東京ステーションギャラリー

picasso and the 20th century art

東京ステーションギャラリーで開催中の「ピカソと20世紀美術 |北陸新幹線開業記念|富山県立近代美術館コレクションから」を見てきました。

富山県立近代美術館には、2004年に1度だけ行ったことがあります。素晴らしい20世紀美術コレクションを再び見たいと長いこと思っていましたので東京へやってきてくれると知った時はとても嬉しかったです。

9点のピカソが公開されるという情報を耳にしたとき、そんなにピカソを所蔵していたっけ?と不思議に思いました。ピカソの絵画はパステル1点、油彩3点だったはずだからあとは版画かなと思ったら東京ステーションギャラリー所蔵のピカソ4点も加えての展示とのこと。え~!東京ステーションギャラリーには1994年から通っていますが、ピカソを所蔵しているなんて初耳でした。いったいどんな作品をお持ちで!?とそちらを見るのも楽しみな展覧会でした。

展覧会の構成は以下のようになっていました。

1 ピカソが開いた20世紀の扉
2 ダダとシュルレアリスム
3 戦後の展開:ヨーロッパとアメリカ
4 拡張する表現と多様化の波

エレベーターで3階へ上がると展示の始まりです。

1 ピカソが開いた20世紀の扉

ピカソの最初の展示作品は、ピカソがパリへ来る前のバルセロナ時代に描いた《座る若い男》 1899年 木炭、水彩・紙 49.0 × 26.0cm 東京ステーションギャラリー蔵 です。バルセロナの居酒屋「エルス・クアトレ・ガッツ(四匹の猫)」に通い、ここに集まるカタルーニャの前衛的な芸術家や知識人を数多くスケッチしたうちの1点。いきなりこんな作品が展示されていてオーと驚きました。

tokyo station gallery picasso guitare
パブロ・ピカソ 《ギターのある静物》 1912年 油彩・カンヴァス 64.5 × 50.0cm
東京ステーションギャラリー蔵

キュビスムにはいくつかの段階があり、初期の段階では、立体を個々の面に解体していく作業が中心になります。1909-11年頃までの作品は分析的キュビスム作品と呼ばれます。国内にはピカソのこの時期の作品は、《裸婦》 1909年 ポーラ美術館蔵、《女の半身像(フェルナンド)》  1909年 ひろしま美術館蔵などがありますが、色彩をあまり使わず、モノトーンで対象の形の分析に集中した時期の作品を表すものとしては、共にキュビスムを推し進めたジョルジュ・ブラックの作品 《静物》 1910-11年 国立西洋美術館や《女のトルソ》 1910-11年 東京国立近代美術館蔵 の方が好例かもしれません。

nmwa georges braque
参考画像
ジョルジュ・ブラック 《静物》 1910-11年 油彩・カンヴァス 33.3 × 24.1cm
国立西洋美術館蔵

分析的キュビスムは、つきつめていくと完全な抽象絵画へとなってしまい、現実の事物との関わりが失われかねないということで画面に文字を書いたり、新聞や壁紙を張り付けたりするパピエ・コレという技法で補おうとしました。色彩も豊かになり、はっきりと描く対象を明示するようになります。また四角形のカンヴァスだけでなく変形型のシェイプト・キャンヴァス、楕円の物も描かれます。

東京ステーションギャラリー蔵の《ギターのある静物》は、分析的キュビスムのあとの総合的キュビスム作品です。楕円形になっています。実際の作品はピンクや緑の色がもっと鮮やかに明るいです。タイトルを見ないと一瞬、何が描いてあるのかちょっとわからないですね。

picasso homme au chapeau 1915
パブロ・ピカソ 《帽子の男》 1915年 油彩・カンヴァス 63.0 × 51.0cm
東京ステーションギャラリー蔵

こんな作品も所蔵していたのですね。こちらも総合的キュビスム作品です。何だか可愛らしいです。富山県立近代美術館の版画《帽子を被った男》 1914年と見比べるのも面白いです。

toyama picasso femme dans un fauteuil
パブロ・ピカソ 《肘かけ椅子の女》 1923年 油彩・カンヴァス 81.5 × 65.0cm

新古典主義の時代の傑作《腕を組んですわるサルタンバンク》が近くのブリヂストン美術館にありますが、こちらも負けず劣らず素晴らしい作品です。ほぼ灰色に光が当たる部分に白、そして黒の線描とシンプルすぎる絵ですが、とても魅力的で天才の力量を見せつけられる作品です。新古典主義のスタイルは、第一次大戦後の荒廃した世相の中で秩序への回帰を求める社会、文化の傾向と合致したものだったと解説にあり、アンドレ・ドランの古典的な《褐色の座裸婦》が隣りに掛けられており興味深い競演でした。

georges roulault passion
ジョルジュ・ルオー 《パシオン》 1943年 油彩・カンヴァス 104.0 × 73.5cm

八角形の形をした小部屋の展示室には、ルオーの《パシオン》を中心に、その左右に版画《ミセレーレ》が4点ずつ掛けられています。 《パシオン》は、キリストが法廷に引き立てられた情景を描いた物です。縦長の大きな画面がステンドグラスの窓のように思わせるもので非常に美しい作品でした。キリストの水色の服から光が透過しているように見え、ルオーがステンドグラス職人であったことを強く思い起こされ、この部屋がまるでルオーの小さな礼拝堂のようでとても素敵な空間でした。

george roulault portrait

ルオーの肖像写真の背後に写っているのは《パシオン》でしょうか。

tokyo station gallery picasso femme assis sur fond janne
パブロ・ピカソ 《黄色い背景の女》 1937年 油彩・カンヴァス 130.0 × 97.0cm
東京ステーションギャラリー蔵

この作品をチラシで見た時、東京ステーションギャラリーはこんな作品を所蔵しているの!?と目を丸くしました。昔、モネやルノワール、ピカソなど企業の所蔵するフランス近代絵画の名品を展示する展覧会のチラシにピカソの素晴らしい人物画がデカデカと掲載されていたのですが、モネやルノワールの油彩に混じってそのピカソだけがリトグラフ作品で非常にがっかりしたのを思い出してこんな凄い油彩持ってるわけないし、きっとリトグラフだと思って会場で作品を見てびっくり!!しかもサイズがでかい!

この作品の魅力は何と言っても目の覚めるような背景の黄色です。衣装の青や赤もお互いに引き立てています。ピカソらしいというとキュビスムだったり、ゲルニカっぽい絵、最晩年の物だったりといくつもイメージがありますが、顔が2つに割れた丸みのある不思議なフォルムのこの人物も誰が見てもピカソと答えられるようなピカソらしい名品だと思います。じーと見てると二人羽織をしているようにも見えてくる(笑)。作品の質、そしてサイズ、国内にあるピカソ作品で5本の指に入る名品ではないでしょうか。

この作品は、1983年に東京国立近代美術館、京都国立近代美術館で開催された「ピカソ展」にピカソの孫娘マリーナ・ピカソコレクションから出品されています。

東京ステーションギャラリー所蔵の4点のピカソは、1988年に東京ステーションギャラリーで開催された「キュビズムのピカソ展」に出品された物です。《ギターのある静物》、《帽子の男》などもマリーナ・ピカソコレクションでした。《ギターのある静物》をどこかで見たことがあるなと思ったら展覧会のカタログの表紙を飾っていたり、ポスターにも採用されており、美術館のホームページのアーカイブで目にしていた物だったのでそれらを収蔵していたとは驚きの連続でした。

toyama picasso femme assise
パブロ・ピカソ 《座る女》 1960年 油彩・カンヴァス 100.0 × 80.5cm

戦争の時代の荒廃した心を表したかのようなほぼ灰色一色で描かれた1941年の《静物》 、そして展示されているピカソとしては最も晩年に近い1960年の《座る女》と、パリへ立つ前の作品からキュビスム、新古典主義、それ以降も作風を変えていくピカソの変遷を辿ることができます。ピカソ作品9点の内訳は富山県立近代美術館の油彩3点、版画2点、東京ステーションギャラリーの油彩3点、木炭1点の計9点です。

ちょっとショックだったのが、当然来ていると思っていたピカソの《闘牛場の入口》が来ていなかったこと。こちらは富山県立近代美術館で開催中の「世界・日本の20世紀美術」-旅する100年- 3月14日(土)~5月10日(日)の方で展示されているとのこと。実は富山県立近代美術館でも全館コレクション展が開催中で是非とも東京ステーションギャラリーの展示と併せて見てくださいという趣旨のようです。名品が沢山東京へやってきていますが、実はまだまだ富山から来ていない名品があるのです。富山へ来なさいということですね。

picasso 1900
参考画像
左:パブロ・ピカソ 《闘牛場の入口》 1900年 パステル・厚紙 51.0 × 69.0cm
富山県立近代美術館蔵

中央:パブロ・ピカソ 《酒場の前の男女》 1900年 パステル・紙 40.0 × 50.0cm
川村記念美術館蔵

右: パブロ・ピカソ 《ロマの女》 1900年 パステル、水彩・紙 44.5 × 59.0cm
三重県立美術館蔵

《闘牛場の入口》が描かれた年のパステルによる作品が国内にいくつかあります。1900年に初めてパリへ行くピカソですが、これらはバルセロナ時代に描かれた物でしょうか。発色のよいパステルのどぎついほどのカラフルな画面に目を奪われます。

この章には他に、マルク・シャガール、ジャック・ヴィヨンの油彩画、ワシリー・カンディンスキー、エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー、ジョルジュ・ブラック、アンリ・マティス、フェルナン・レジェの版画、パウル・クレーの鉛筆画、レイモン・デュシャン=ヴィヨン、ケーテ・コルヴィッツ、フェルナン・レジェの彫刻などが展示されていました。

2 ダダとシュルレアリスム

2-1 ダダ

この章は、マン・レイのメトロノームに目の写真が付けられた《不滅のオブジェ》や写真作品、メレット・オッペンハイムのグラスや毛皮を使った作品《りす》、マルセル・デュシャンの《トランクの箱》、ジョセフ・コーネルなどが展示されていました。1章に展示されていたジャック・ヴィヨン(1875-1963)、レイモン・デュシャン=ヴィヨン(1876-1918)と、この章のマルセル・デュシャン(1887-1968)の3兄弟をコレクションしている美術館他にありますでしょうか。感心です。

2階へ降ります。

2-2 シュルレアリスム

delvaux night train
ポール・デルヴォー 《夜の汽車》 1947年 油彩・木版 153.0 × 210.0cm

出たー。この作品も東京へ来てくれたのですね。 国内に素晴らしいデルヴォーはいくつもありますが、こちらの作品は世界的名品なのではないでしょうか。過去に発行されたデルヴォーの画集の表紙に画面右側がトリミングされ採用されています。

デルヴォー作品は、屋外の情景が多いイメージがありますが、豪華に設えた室内の情景も素晴らしいですね。右側に立つ裸婦の奥にストーブ、植物を飾る台座と並んでいますが、鏡の中には裸婦、植物の台座、ストーブという順番に映りこんでいることに今回初めて気がつきました。また鏡の右側の空間あたりに、立つ裸婦を右向きにし、2倍くらいのサイズにした女性の上半身が塗りつぶされた形跡があり興味深い発見ができました。

EDITIONS CERCLE DART delvaux
EDITIONS CERCLE D'ART 1991年刊行 デルヴォー画集

toyama miro
ジョアン・ミロ 《パイプを吸う男》 1925年 油彩・カンヴァス 64.0 × 50.0cm

この作品は、カタログの解説によると富山県立近代美術館の「20世紀美術の流れ」というコンセプトの第1号というべき購入作品です。 1981年7月に置県100年記念事業として開館する富山県立近代美術館ですが、1976年の時点では美術館のコンセプトが決まっていませんでした。富山県出身の美術評論家の瀧口修造(1903-1979)を県関係者が訪ね、相談したことが後の美術館のコンセプトへ向かわせるきっかけになったようです。その端的な表れが、1978年にミロの《パイプを吸う男》を2億円で購入したことです。

1940年、ミロに注目し世界の誰よりも先に1冊の本にまとめたのが、瀧口修造でありました。ミロはこのことに大変驚いたといいます。そして交流が始まり、瀧口修造・詩、ミロ・画の合作《手づくり諺》、《ミロの星とともに》が生まれます。瀧口修造に意見を求める機会がなかったら富山県立近代美術館は当時、公立美術館の多くが目指した印象派周辺以降のフランス近代絵画を目玉にする美術館として開館していたかもしれませんね。

この章には他に、マックス・エルンスト、イヴ・タンギーの油彩、ジャン・アルプの彫刻が展示されていました。ルネ・マグリット《真実の井戸》、サルバドール・ダリ《アメリカのクリスマスのアレゴリー》は富山で展示中で東京へは来ませんでした。残念。

3 戦後の展開:ヨーロッパとアメリカ

3-1 戦後の展開:ヨーロッパ

toyama Jean Dubuffet
ジャン・デュビュッフェ 《よく眠る女》 1950年 油彩・カンヴァス 92.0 × 130.0cm

先史時代の洞窟の壁画のようにも見える画面で、展示室の剥き出しの赤レンガの壁によく合います。他の作品たちもそうですが、所蔵先での展示と全く違った印象を受ける物も少なくないのではないでしょうか。赤レンガの壁に並ぶ20世紀美術の巨匠たちの作品の眺めはとても素晴らしいものでした。

こちらの《よく眠る女》は、1950年4月から51年の2月にかけての連作〈ご婦人のからだ〉シリーズの1点で、36点の油彩画、14点のグアッシュや水彩、56点の黒のデッサン、リトグラフ6点が確認されています。

nmwa Jean Dubuffet
参考画像
ジャン・デュビュッフェ 《ご婦人のからだ(「ぼさぼさ髪」)》 1950年 油彩・カンヴァス
116.0 × 90.0cm 国立西洋美術館蔵  山村家より寄贈

一堂に並べたら壮観でしょうね。

toyama bacon
フランシス・ベーコン 《横たわる人物》 1977年 油彩・カンヴァス 198.0 × 147.5cm

男性モデルは批評家、ミシェル・レリスであるとされる。半人半獣で表現されたモデルの身体から、文学は闘牛である、と記したテキストを残した批評家レリスの精神を読み取るこができよう。解説より

解説を読んでもこの世界感を理解するのは難しいのですが、ビビッドな色使い、不可思議な人体表現と大きな画面が作品の前から動けなくさせてくれます。人体と牛の左側にある白いもやもやしたところにバラバラになった文字が沢山書かれているのですが、これはやはり批評家ということを示すものなのでしょうか。

ベーコンは、ピカソの新古典主義的な素描作品に感銘を受け、素描や水彩を描き始めました。ピカソの新古典主義時代の《肘かけ椅子の女》を所蔵している富山県立近代美術館、凄すぎる。富山県立近代美術館は1981年に開館しますが、ベーコンの作品は1977年に制作されてから2年後の1979年12月に取得しています。ピカソの《肘かけ椅子の女》は1981年1月取得なのでベーコンの方が先なのですね。

国内には富山県立近代美術館、東京国立近代美術館、横浜美術館、豊田市美術館、池田20世紀美術館と5点のベーコンの油彩があるようです。

東京国立近代美術館は、昭和59年度(1984年)の取得。横浜美術館の開館年は1989年、豊田市美術館の開館年は1995年。これより数年前に取得しているかもしれませんが、富山に比べるとずっと後です。それから唯一、私立美術館である池田20世紀美術館は、いつベーコンを取得したのか分かりませんが開館は1975年です。富山県立近代美術館は日本の公立美術館として初めてベーコンを収蔵した美術館であるのは間違いないようですね。凄い決断だったと思います。

ちなみにこのベーコンは4950万円で購入しましたが、現在の価値は30億円はするとのことです。あくまで推定評価額であってオークションに出たらもっと高騰するかもしれませんね。

この章には他に、ピエール・スーラージュ、ベン・ニコルソン、ルーチョ・フォンタナ、ハンス・ハルトゥング、アントニ・タピエスの油彩、ナウム・ガボ、アルベルト・ジャコメッティ、バーバラ・ヘップワースの彫刻などが展示されています。

3-2 戦後の展開:アメリカ

toyama jasper johns
ジャスパー・ジョーンズ 《消失Ⅱ》 1961年 油彩、エンコースティック、コラージュ・カンヴァス 101.6 × 101.6cm

ジャスパー・ジョーンズも国内で見られる機会が少ない作家です。星条旗やターゲット(的)とは全く印象が異なる作品です。

この作品は、カンヴァス2枚を重ね、一方を折り紙のように折り、さらに上から絵具を重ねることによって、本来そこにあったものが埋もれ、あるいは隠され、視界から「消失」している。こうしたジョーンズの試みは、やがてコンセプチュアル・アートやミニマル・アートの発生を促していった。解説より

この章には他に、サム・フランシス、ルイーズ・ネヴェルソン、ロバート・ラウシェンバーグ、アンディ・ウォーホル、ジム・ダインなどが展示されています。

戦後のアメリカ美術のコレクションも豊富で、今回東京に来ていない作品にも名品がいくつもあります。アレクサンダー・カルダーの動く彫刻 《小さな銀河》 1973年、ジャクソン・ポロックのドリッピング絵画 《無題》 1946年、石膏の人物像とセットによる作品 ジョージ・シーガル 《戸口によりかかる娘》 1971年、モーリス・ルイス 《DALET SHIN》 1958年 218.0 × 368.0cm、もう1点あるサム・フランシス 《無題》 1983-86 243.8 × 852.2cm、トム・ウェッセルマン 《スモーカー♯26》 1978年 234.8 × 406.4cm、フランク・ステラなどは富山でお留守番。

4 拡張する表現と多様化の波

20世紀に興った主義や美術運動などは50を超えるといい、1960年半ば以降に増えました。この章も前章のように怒涛のごとく様々な表現が展示されています。

toyama gerhard richter orangerie
ゲルハルト・リヒター 《オランジュリー》 1982年 油彩・カンヴァス 260.0 × 400.0cm

巨大な作品の多くは富山に残っていますが、こちらはやってまいりました。ゲルハルト・リヒターというと、1960年代前半からの、ぶれた写真のような絵をまず思い浮かべますが、こちらは抽象絵画です。様々な展開を経て1976年に鮮やかで動きに満ちた抽象絵画を発表します。1982年の国際美術展ドクメンタ7で展示された「抽象絵画」シリーズの大作5点のうちの1点で、タイトルはメイン会場の1つであるオランジュリー宮殿から取られました。

この章には他に、アルマン、チャック・クロース、クリスト&ジャンヌ=クロード、マックス・ノイマン、マリソール、アンソニー・カロ、ミニマル・アートのドナルド・ジャッド、コンセプチュアル・アートのジョセフ・コスースが並びます。

20世紀美術は、1世紀でいったい何世紀分進化したのだろうかと驚かされる素晴らしいコレクションでした。これらがコレクションのごく一部ということにも驚きです。日本の現代美術も岡本太郎、吉原直良、山口長男、荒川修作、高松次郎、船越桂、日本画は、杉山寧、高山辰雄など幅広くあり、ポスターと椅子のコレクションも豊富なコレクションを持ちます。是非、現地にまた行ってみたいと思いました。

富山県立近代美術館はいろいろと凄いのですが、ピカソの絵画を複数持っていることが、とにかく凄いのです。私立美術館を除き、ピカソの絵画を4点(油彩3点、パステル1点)も所蔵している公立美術館は他にありません。

国立西洋美術館 油彩3点
国立国際美術館 油彩2点とパステル1点
京都国立近代美術館 油彩1点

群馬県立近代美術館 油彩1点
埼玉県立近代美術館 油彩1点
愛知県美術館 油彩1点
三重県立美術館 パステル1点
徳島県立近代美術館 油彩2点
長崎県美術館 油彩1点
新潟市美術館 油彩1点
横浜美術館 油彩1点
鹿児島市立美術館 油彩1点

(水彩、版画は除く)

公立美術館の多くは日本の近現代美術は幅広く揃えられているのは当然ですが、世界の近現代美術を揃えるのは至難の業で作品が極端に少なかったり、特定の分野に偏らざるを得なく、20世紀美術の大きな流れを辿るのには無理があります。税金で運営されているわけですからそれが当然です。近現代を収集対象とする公立美術館は20世紀美術の象徴であるピカソの絵画をできることなら揃えたい所でしょうけど、寄贈でもなければもはや不可という状態になっています。

20世紀作品の取得価格の総額は約58億7000万円だそうで、現在の時価評価では約270億円を超えるようです。あくまで評価額であってピカソやデルヴォー、ベーコンが実際にオークションに出たら凄いことになりそうです。収集時でも公立美術館の買い物としては高かったかと思いますが、よくこれだけ集められたなとただただ驚くばかりです。フランス近代絵画に収集対象が向かいがちだった公立美術館が多かったから、ライバルが少なかったという幸運もあったかもしれません。今後、他の公立美術館が富山県立近代美術館の20世紀美術コレクションに追いつくことは絶対に無理なことで、益々重要なコレクションになってくるのではないでしょうか。

主な作品の購入年

1978年    ジョアン・ミロ 《パイプを吸う男》 1925年
1978年12月 パブロ・ピカソ 《闘牛場の入口》 1900年
1979年12月 フランシス・ベーコン 《横たわる人物》 1977年
1980年1月 ジャスパー・ジョーンズ 《消失Ⅱ》 1961年
1980年3月 マルク・シャガール 《山羊を抱く男》 1924-25年頃
1980年10月 アンディ・ウォーホル 《マリリン》 1967年
1980年11月 ジョルジュ・ルオー 《パシオン》 1943年
1981年1月 ジャクソン・ポロック 《無題》 1946年
1981年3月 ジャン・デュビュッフェ 《よく眠る女》 1950年
1981年3月 ポール・デルヴォー 《夜の汽車》 1947年

富山県立近代美術館は富山駅に近い場所への移転計画が進んでいます。どんな美術館に生まれ変わるのでしょうか。とても楽しみです。

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富山県立近代美術館では、「北陸新幹線開業記念 時代の共鳴者 辻井喬・瀧口修造と20世紀美術 ーセゾン現代美術館コレクションからー」 12月1日(火)~2016年1月17日(日) を開催します。

sezon kandinsky
ワシリ―・カンディンスキー 《柔らかな中に動く》 1927年 油彩・カンヴァス 100.0 × 50.0cm
セゾン現代美術館蔵 (この作品が展示されるかはわかりません)

紹介文より

軽井沢にあるセゾン現代美術館は、現代美術の傑出したコレクションで知られています。その成り立ちには、詩人である辻井喬(堤清二のペンネーム)の存在を欠かすことができません。当館は富山県出身の詩人・批評家である瀧口修造の美術への眼差しを受け継いで、作品の収集を行い、それはセゾン現代美術館のコレクションと重なり合っています。辻井と瀧口、二人はともに同時代美術の擁護者として作家たちを支援し、その紹介に努めました。本展では、同時代の表現に共鳴した二人の詩人が、いかに20世紀美術を捉えたのかを、セゾン現代美術館のコレクションを中心に紹介します。

2000年にも「セゾン現代美術館コレクション展 20世紀-時代の証言」を開催したので、富山で2度目のセゾン現代美術館のコレクションを見られる機会となります。両館ともジャスパー・ジョーンズ、ジャクソン・ポロックの絵画を所有していたり、ジョージ・シーガルの石膏の人物像があったりと共通する面を持つコレクションですが、富山県立近代美術館にはピカソ、ベーコンはあるけどセゾン現代美術館にはなかったり、その逆にセゾン現代美術館にはマーク・ロスコ、 アンゼルム・キーファーはあるけど富山にはないといった具合に合わせて見たら凄く面白そうなコレクションです。どんな作品が軽井沢から富山へ行くのでしょうか。私も行きたい!

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2011年の7月から10月にかけて富山県立近代美術館と新潟市美術館の所蔵品を核にした「20世紀美術 冒険と創造の時代 -ピカソ ミロ そしてウォーホルが駆け抜けた時代を見る-」という展覧会があり、富山、新潟と各館を巡回しました。新潟展の会期終了1週間後に新潟に行く用があり、見られなかったのが悔しくて悔しくていましたが、なんと今、目黒区美術館に新潟市美術館のコレクションが来ているではありませんか!

niigata picasso klee 2015

「新潟市美術館の名品たち -ピカソとクレーもやってきた」 4月11日(土)~6月7日(日)

新潟市美術館が誇るボナールやルドン、ピカソ、クレー、エルンストなどの西洋絵画、山口長男、草間彌生、それから新潟の画家たちの作品を目黒区美術館のコレクションと合わせて紹介する面白そうな展覧会です。富山、新潟と北陸の誇るコレクションを同時期に東京で見られる貴重な機会です。

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