美術展命の男のブログ

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「クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」 愛知県美術館

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愛知県美術館で開催中の「クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」展を見てきました。

このあと長崎県美術館、宇都宮美術館を巡回する展覧会で、東京住まいの私は宇都宮美術館が一番近いのですが、豊田市美術館所蔵の《オイゲニア・プリマフェージの肖像》が愛知展のみの出品という情報を得て心が揺らいでいました。そこに懸賞で愛知会場の招待券が当たってしまったのでこれは神が愛知へ行けと言っていると判断し名古屋へ(笑)

最寄の栄駅に着くとポスターが至る所に貼ってあります。 わくわく。

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愛知県美術館に行くのは
2004年 全館所蔵作品展 境界をこえて-20世紀の美術
2005年 ゴッホ美術館、クレラー=ミュラー美術館所蔵品による ゴッホ展-孤高の画家の原風景
2009年 アンドリュー・ワイエス 創造への道程
2011年 生誕100年 ジャクソン・ポロック展
2012年 開館20周年記念 愛知・岐阜・三重 三県立美術館協同企画No. 6 魔術/美術 幻視の技術と内なる異界

今回で6度目。まだこれしか行ってないんだなあ。関東と巡回展が被ることも多くあり、豊田市美術館や名古屋市美術館へ行っても時間の関係でここには寄らないということも多々ありました。

ゴッホ展は東京国立近代美術館で見ましたが、愛・地球博の特別な計らいか何かで愛知展には損保ジャパン東郷青児美術館所蔵の《ひまわり》が会期の前半だけ特別出品され、50年ぶりの来日となった《夜のカフェテラス》との共演は二度とないかもと思い、愛知展にも足を運びました。東京展より余裕のある広々とした空間と開幕して早めの夕方頃に行ったので空いていてかなり見易くてよかったです。

「アンドリュー・ワイエス 創造への道程」は、Bunkamuraザ・ミュージアムでも開催されていたのですが、気づくと会期末で愛知で見ればいいやと、のこのこ出掛けた展覧会です。東京で見れや!見に行った日にワイエスがこの世を去り非常に驚愕した展覧会でもありました。東京で見られるものを東京で見ず、特別展示があるというわけでもないのにわざわざ遠くに見に行った唯一?の展覧会です。ワイエスが呼んでた?(笑)

愛知県美術館の入る愛知芸術文化センターへは地下鉄を降りて一旦地上へ出てから向かっていたのですが、地下で繋がっていたのですね。ポロック展辺りで知ってから地下通路で直接、愛知県美術館へ行くようになりました。愛知芸術文化センター前にあるオアシス21の水の宇宙船が前から気になっていました。時間がなくていつも素通りしていましたが、今回エレベーターに乗って上がってみました。ガラスの屋根に水が流れていていい眺めでした。夜はライトアップされるとのことなのでまた機会があったら上ってみたいです。

愛知芸術文化センターて本当に立派ですね。贅沢な造りです。バブルの遺産というのでしょうか。今こんな立派な施設造れません。吹き抜けを眺めながらガラス張りのエレベーターで一気に美術館まで上がるのがいつも楽しみになっています。大阪市立近代美術館もこういった劇場や美術館のある立派な施設になる予定だったようですけどバブル崩壊で悲惨な目にあっています。さっさと造っちゃえばよかったのに(笑)

1月も下旬となり、平日ですが閉幕まで20日ちょっとなので引っ切り無しにお客さんが入り口に押し寄せていました。今まで見た中で一番人がいるなといった印象でした。

展覧会のタイトル通り愛知県美術館の一番の至宝《人生は戦いなり(黄金の騎士)》を核とした展覧会というのはわかっていましたが、どんな内容か期待して入場。

会場に入って気づきましたが、展示替えがされて後期が始まった日でした。

本展は3つの章で構成されています。
Ⅰ 戦いへのプレリュード―ウィーン工芸美術学校入学から分離派結成へ
Ⅱ 黄金の騎士をめぐる物語―ウィーン大学大講堂の天井画にまつわるスキャンダルから
  「黄金の騎士」誕生へ
Ⅲ 勝利のノクターン―クンストシャウ開催から新たなる様式の確立へ

最初の部屋はクリムトと言われなければわからない画風の初期の作品が並んでいました。

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クリムト《ふたりの少女と西洋夾竹桃》1890-92年頃 油彩、カンヴァス ワズワース・アテネウム美術館蔵
※愛知会場のみ

イギリスのアカデミーっぽい印象を受ける絵です。後のクリムトとは似ても似つかない。16歳頃の石膏デッサンや20歳前後のオウムの習作や花の習作など確かなデッサン力の素描作品を沢山見られたのは貴重でした。

飛騨高山美術館所蔵のクリムトの油彩は図版でしか見たことがありませんでしたが、今回初めて実物を見ることができました。

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クリムト《森の奥》1881-82年 油彩、カンヴァス 11.7×15.9cm 飛騨高山美術館蔵

ポストカードほどのとても小さな作品でした。もっと大きな絵だと思っていましたので驚きました。想像していたのとサイズが全然違う!ということよくあるんです。結構しょっちゅう(笑)
画面中央に木の幹がでーんと描かれた絵です。この時期からジャポニスムに触れていたのでしょうか。

第1回ウィーン分離派展のポスターのミノタウロスを倒すテセウスの裸体表現が問題となり、検閲後の股間部分を隠すかのように唐突に木の幹が縦に伸びるのを髣髴とさせる興味深い作品です。ポスターよりずっと前の作品ですけど。

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左:クリムト《第1回ウィーン分離派展ポスター(検閲前)》1898年 リトグラフ、紙
  京都工芸繊維大学 美術工芸資料館蔵
右:クリムト《第1回ウィーン分離派展ポスター(検閲後)》1898年 リトグラフ、紙
  サントリーポスターコレクション(大阪市立近代美術館準備室寄託)

ウィーン大学大講堂の天井画《哲学》、《医学》、《法学》の超巨大な原寸大パネルが展示されていました。1945年にインメンドルフ城に疎開させていたものの城ごと火災で消失とのこと。戦火で焼けたと思ったらナチスの親衛隊が敵の手に渡らないようわざわざ城に火をつけて燃やしたとか...。人間の愚かな行為で消えてしまったとは泣ける。白黒写真でしか見ることができないのでパネルも白黒でしたが、物凄い迫力でした。当時はなんじゃこりゃと非難ゴーゴーだったそうですが、大きさもさることながら亡霊のような顔やファム・ファタールのような妖しい女、人間が積み重なる様がロダンの地獄の門のようでもあったりと恐ろしくも美しく畏敬の念を抱かせるような画面でした。カラーで見られないのが本当に残念。

ウィーン分離派に影響を与えたと言われる芸術家の紹介もあり、チャールズ・レニー・マッキントッシュの椅子や《室内装飾の芸術家「芸術愛好者の家Ⅱ」》のリトグラフも展示されていました。このリトグラフを所蔵する飛騨高山美術館はこのダイニング・ルームを忠実に再現しているそうです。いつか訪ねてみたいと思ってる美術館です。

愛知県美術館の所蔵するロダン《歩く人》ブロンズとジョルジュ・ミンヌ《聖遺物箱を担ぐ少年》大理石も展示されています。

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ジョルジュ・ミンヌ《聖遺物箱を担ぐ少年》1897年 67.0x 18.5x38.0cm 大理石 愛知県美術館蔵

全裸の五人の若者が噴水の周りを円形で囲み中心に向かって跪いている《ひざまずく青年の泉》の白黒写真が必ずこの作品の解説に付きます。ずっと気になっている作品です。この噴水実物を見てみたい。引き伸ばされた独特な若者の表現はオスカー・ココシュカにも影響を与えたそうで展示後半に出てくる版画《夢見る少年たち》のなかで似たような表現がされていることを本展で初めて知りました。

総出品数は221点で愛知会場は13点が展示されないので総展示数は208点です。そのうち80点以上が宇都宮美術館所蔵のウィーン分離派の機関誌《ヴェル・サクレム》の展示です。多い...。前後期で約半数が別紙になったりページ替えがされたとのことです。

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クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》1903年 油彩、テンペラ、金箔、カンヴァス 100.0×100.0cm 愛知県美術館蔵

会場の半ばほどで展覧会のメイン《人生は戦いなり(黄金の騎士)》が登場します。1990年に17億7,000万円(1,140万ドル)で購入した日本の美術館に初めて収蔵されたクリムト作品です。クリムトの風景画は現在30億円、40億円を超えてオークションで取引されていますが、この作品は類似作品がない唯一無二の作品ですので現在は50億、60億以上の価値があるのではないでしょうか。欲しい人がいればいくらでも高くなってしまうので80億、100億なんかになっても別に不思議ではない絵です。この購入にはトヨタ自動車株式会社から愛知県への20億円の寄附金が当てられました。ここの所蔵品のマティス《待つ》1921-22年 中部電力株式会社寄贈だったり、ピカソ《青い肩かけの女》1902年(株)東海銀行寄贈だったりといずれも今日とても手が出せないような名品を企業のおかげでゲットしていたんですね。バブル恐るべし。

《人生は戦いなり(黄金の騎士)》の登場の前に、ベートーベン・フリーズの騎士が描かれた部分の原寸大写真、2000年と最近作られたものですがゴシック式甲冑があったり、この作品の為の物ではありませんが甲冑のデッサンがあったり、1490-1500年頃の赤と白の千鳥格子のように塗られたカラフルでお洒落な大兜があったりとこの主役の登場までにぐんぐんと盛り上げてくれます。この作品は、愛知県美術館のコレクション展や他の展覧会に貸し出されたのを何度か見たことがありましたが、改めて素晴らしい作品だなと思いました。青い特設壁にも映えますねえ。資料たちと見ると余計興味深い作品です。額も華美ではなくシンプルすぎでもなく作品を引き立たせるいい額なんです。左下から蛇がちょろっと頭を覗かせていますが、当初、蛇は縦にひょろっと立ち上がる姿で描かれていたとパネルで解説されており、確かに痕跡が確認できました。何度も見ている作品なのに初めての情報にびっくりでした。隣にはデューラーの版画《騎士と死と悪魔》も展示してあり得した気分。

本展で驚いたのがジャポニスムにも触れていたこと。このクリムトの先を行くと何と鈴木其一の金屏風《秋草図》が展示されているではありませんか。四角い金箔を貼っていくと、つなぎ目に独特のラインが出ますが、《人生は戦いなり(黄金の騎士)》の下部にも確かに金箔を貼った時のような独特な表現が見られます。三菱一号館美術館で見たKATAGAMI展で知った型紙や江戸時代の小袖裂も展示されていました。クリムトは小袖裂を集めていたそうでそこに表現された花模様も《人生は戦いなり(黄金の騎士)》の花々の参考になったのでしょうか。

画像や印刷物ではわかりにくいですが、黒々と描かれた馬の毛も華麗な線で描かれています。いつまでも見ていたい絵です。

ウィーン工房のコロマン・モーザーやヨーゼフ・ホフマンらの家具やシャンデリア、陶器などもよかったです。この辺りは大阪市立近代美術館建設準備室、飛騨高山美術館、豊田市美術館、宇都宮美術館と全て国内からの出品でこんなに持ってるの!?と国内のコレクション凄いなと感心しました。アール・ヌーヴォー全盛の頃だったとおもいますが、曲線よりジャポニスムから影響を受けたと言われる市松模様や格子状など直線の多用はアール・デコの予告を感じました。ジュエリーは海外からの借用が多いようでした。あえて高価な宝石を使わずにガラスだったりサンゴを使ったりした物でしたが、いろんな形、素材がひしめき合う詰め込み型な感じでちょっとうるさいデザインだなと思いました。あえて宝石を使わない宝飾品だとラリックの方が好みです。

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左:ヨーゼフ・ホフマンのデザインによるブローチ 1905年 個人蔵
右:ヨーゼフ・ホフマンのデザインによるブローチ 1910年 個人蔵

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クリムト《オイゲニア・プリマフェージの肖像》1913-14年 油彩、カンヴァス 140.0×85.0cm
豊田市美術館 ※愛知会場のみ

クリムトの油彩と素描が一堂に並んだ部屋が後半に登場します。ここに本展の目的?の一つ《オイゲニア・プリマフェージの肖像》が登場です。《人生は戦いなり(黄金の騎士)》と同じ会場で見るのは初めてです。愛知県にあるクリムトの二大名品を同じ会場で見られるとは何とも贅沢です。豊田市美術館で見た《オイゲニア・プリマフェージの肖像》は、ガラスの入っていない額で飾られていましたが、今回はガラス入りの額の中に額ごと入っていました(笑)外側の額がかなりの大きさなので作品が凄く大きく感じられてこんな大きな作品だったっけ(汗)と思ってしまいました。このガラス額は出張用のケースなのでしょうか。所蔵館でもこの展示になってたらちょっと悲しい。豊田市美術館は剥き出しの作品が多いですからね。顔と手は丁寧に描かれていますが、衣装が超ラフです。画像で見てもラフだなと思いますが、実物を前にするとこんなに自由なタッチだったっけ?と驚かされます。この作品もよく日本に入って来たなと思う名品です。

昨年、汐留ミュージアムで「ウィーン工房 1903-1932 モダニズムの装飾的精神」が開催されました。家具やアクセサリーなどの工芸、衣装などに焦点を当てた展覧会でクリムトなどの絵画はありませんでした。プリマフェージ家旧蔵の衣装が展示されていたので豊田市美術館のクリムトやシーレ、ココシュカなんかも展示してあったら最高なんだけどなぁと思っていました。またそういった展覧会が見たいなとその時強く思いました。今回衣装はありませんでしたが、クリムトの絵画とウィーン工房の家具や工芸を一緒に見られたので嬉しかったです。

豊田市美術館がクリムトの素描を5点も所蔵していたことを本展で初めて知りました。何点かはあると知っていましたが5点もあったとは。前期2点、後期3点だったので多い方を見られてラッキーでしたが、前期に《オイゲニア・プリマフェージの肖像》のための習作が展示されていたのでちょっと残念でもありました。愛知県美術館は紙作品の収集はノータッチなのですね。豊田市美術館の頑張りをちょっと見習ってほしいです。姫路市立美術館(前期1点、後期1点)、宮城県美術館(前期2点)とそれぞれ2点の素描を所蔵していて本展に貸し出されていました。

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クリムト《女の胸像》1897-1898年 黒チョーク、紙 45.2×32.3cm 姫路市立美術館蔵
※後期展示

後期展示で見られた素描の中で最も美しかった作品の1点。クリムトらしい雰囲気のある作品です。

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クリムト《赤子(揺りかご)》1917-18年 油彩、カンヴァス 110.9×110.4cm
ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵

初めてこの作品の図版を見た時、布の山しか描かれてないのに何で赤子?と思いました。舐めまわすように下から上へ視線を向けると赤子の顔発見(笑)毛布をかけられた赤ちゃんの絵ですが、山形の布のてっぺんから顔を出す赤ちゃんがムリーリョやエル・グレコなどの《無原罪の御宿り》のような仰ぎ見る効果で何だか神聖なもののような不思議な絵でした。一か月で仕上げた絵だそうです。こちらも大胆な筆跡です。ワシントン・ナショナル・ギャラリーはクリムトの油彩を1点しか所蔵していないようですが、よく貸し出してくれましたね。しかも日本初公開。感謝感謝です。

出品数が多くゆとりのある展示をしているので特別展示室だけでは足りなく普段はコレクション展に使ってる部屋まで突入します。

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最後の展示室に入ると思わずうわぁと言ってしまいそうな素敵な空間が現れます。《ストックレー・フリーズ》の下絵の原寸大写真でストックレー邸食堂が再現されています。昨年のポロック展のアトリエの原寸大再現といい面白いですね。こういった再現を愛知県美術館のお家芸にしたらいいと思います。(笑)次回の丸山応挙展も大乗寺客殿の《松に孔雀図》と《郭子儀図》を展示してその空間を愛知県美術館の展示室に再現するとのことです。こちらも気になります。

クリムトはウィーン工房との共同作業により、ストックレー邸食堂装飾の制作に携わりました。ベルギーの実業家アドルフ・ストックレーがホフマンに設計を依頼したものです。1905年に建設が開始され7年もかかって1911年に完成しました。

壁画は直接クリムトが描いたものかと思ったら下絵を基に、ウィーン工房の職人たちが、ガラスや着色した石、銅、銀、セラミック、貴石、サンゴ、エナメルなど高価な素材を用いたモザイク画として仕上げられたそうです。

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実際の空間は黒、白、茶系のタイルの床の上に茶系とオリーヴ色で織られたカーペットが敷かれ、22人が座れる食卓が置かれました。壁には黄色に緑の筋の入った大理石が張られ、下部には大理石の食器棚が取り付けられています。ここの再現度は低かったです(笑)せめて床だけでももうちょっと細かく再現してくれたらもっと良かったです。作品に集中させる為の最低限の再現だったのかもしれませんが。それでもテンションの上がる空間でした。

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実際のストックレー邸食堂

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下絵だから書き込みも見られます。本当に素敵な空間でした。


2012年、ウィーンのレオポルト美術館で「クリムトの素顔:絵画‐書簡‐内面」が開催され愛知県美術館から《人生は戦いなり(黄金の騎士)》が貸し出されました。本展にはレオポルド美術館から《アッター湖畔》が来ました。そのお礼と言っていいでしょう。

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クリムト《アッター湖畔》1900年 100.0x100.0cm 油彩、カンヴァス レオポルド美術館蔵、ウィーン

でもですね。レオポルド美術館は↓を所蔵しているのですね。《人生は戦いなり(黄金の騎士)》を借りておいてこっちを貸しなさいと思いました(笑)それだけの価値は十二分にありますよね。

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クリムト《死と生》1915年 178.0×198.0cm 油彩、カンヴァス レオポルド美術館蔵、ウィーン
※本展には出品されていません

本展にはクリムトの油彩が9点出品されていて4点が国内の美術館、2点が個人蔵、2点がアメリカ、1点がオーストリアからの出品です。ヨーロッパひどい。愛知県美術館は近年、クリムト展があると《人生は戦いなり(黄金の騎士)》を出来る限りというかほとんど貸し出してるそうです。ギブアンドテイクじゃないんですかね?

時期が悪かったのか日本の美術館の足元を見られているのか愛知県美術館がちょっと気の毒に思いました。油彩9点だけは少ないと耳にする展覧会ですが、私は結構楽しめました。ただクリムト展と呼ぶのは苦しいですね。2003年に松坂屋美術館で開催された「クリムト 1900年ウィーンの美神展」の内容は衝撃すぎるほど粒揃いだったのではないでしょうか。寝不足の中フラフラで見に行って傑作に囲まれた暗めの空間は覚えてるのですが、ほぼ記憶が飛んでる展覧会なんです(爆)後悔。チラシを見るとよく揃ったなと感心する内容です。1989年セゾン美術館に《接吻》が来た時以来の”クリムト”の展覧会だったのではないでしょうか。この展覧会は見ていませんが、豪華なカタログ、当時の会場の写真を見たことがあるのですが、日本でこれが開催されたのかと疑うほどの内容でした。見たかった...。

近年、ウィーン分離派とクリムトの作品を展示した展覧会で素晴らしかったのは2001年から2002年にかけて宮城県美術館、Bunkamuraザ・ミュージアム、島根県立美術館を巡回した「ウィーン分離派 1898-1918 クリムトからシーレまで」だと思います。クリムトの絵画は本展より少なかったのですが、紙作品が重要な物ばかりで《哲学》の習作やストックレー・フリーズの下絵(本展のパネルになった物とは別物)も展示されました。シーレの油彩、紙作品の名品もあり、もちろんウィーン分離派の絵画、ポスター、家具さらにベルギー象徴派やフランス印象派にまで及ぶ多角的な展示でかなり面白かったです。

2点ほどこうだったらいいなと思った点があります。1点目は《人生は戦いなり(黄金の騎士)》が主役の展覧会だったのでこの作品に少しでも共通する正方形の絵で、花々が描かれたものか砂子のような背景を持つ風景画が1点でもあったら類似性を楽しめたのではないかと。

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クリムト《薔薇》1904年 110 x 110cm 油彩、カンヴァス オルセー美術館蔵
※本展には出品されていません

2点目はクリムト以外の絵画はマクシミリアン・レンツ《ひとつの世界(ひとつの人生》1899年 油彩、カンヴァス ブダペスト美術館蔵のみでした。本当にクリムトだけに心血注いだからこうなったのかもしれませんが、クリムト周辺の作家の絵画ももう少しあったらより魅力的な展示になったのではないかと思います。国内からだと豊田市美術館のココシュカの油彩、シーレの油彩、クレヨン画、東京国立近代美術館のココシュカの油彩、宮城県美術館のシーレのテンペラ画、水彩画などなど。他の作品で協力してるからそんなに貸せないよで終わりでしょうけど(泣)

《人生は戦いなり(黄金の騎士)》をメインにウィーン分離派、ウィーン工房、ジャポニスムと様々な分野のいいとこ取りをした展覧会だと思いました。《人生は戦いなり(黄金の騎士)》を軸にした展覧会ということで愛知県美術館ならではの開館20周年に相応しいテーマの展覧会であったと思います。いかにクリムトを集めるのが大変なんだなと思った展覧会でもありました。

《ふたりの少女と西洋夾竹桃》 ワズワース・アテネウム美術館蔵と《オイゲニア・プリマフェージの肖像》 豊田市美術館蔵は愛知会場のみの展示でさらに他会場で並ばない可能性がある作品があるかもしれないとのことなのでもし機会があれば愛知会場での観覧を是非おすすめ致します。《人生は戦いなり(黄金の騎士)》 愛知県美術館蔵と《赤子(揺りかご)》 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵はきちんと巡回するのでご安心を。個人蔵の作品がどうなるかまだわからないとのことです。

「クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」展は、ここで終わり。

コレクション展も素晴らしい作品が楽しめました。

ナチス・ドイツが略奪したクリムト作品の数々がユダヤ人子孫に返還され、続々とオークションに登場し30億、40億円以上の値を付けたり、非公式売買で《アデーレ・ブロッホバウアーの肖像I》が約160億円で取引されるなど記憶に新しいところですが、皮肉?なことにコレクション展は「夢と現実のはざまで 20世紀はじめのドイツ美術」から始まります。

平成23年度 新収蔵作品山村博男氏寄贈のケーテ・コルヴィッツの版画や国内では所蔵例が少ないエルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーやエミール・ノルデ、ライオネル・ファイニンガーの油彩、エルンスト・バルラッハの彫刻もあります。珍しいコレクションです。キルヒナーの油彩は1点だけの所蔵かとずっと思っていましたが、今回2点持っていたことを知りびっくりしました。

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エルンスト・ルートヴィヒ キルヒナー《グラスのある静物》1912年 油彩、カンヴァス 100.0x74.0cm 愛知県美術館蔵

↑美術館の代表的なコレクションとして本やパンフレットなどの図版でも結構よく見ていた作品。

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エルンスト・ルートヴィヒ キルヒナー《日の当たる庭》1935年 油彩、カンヴァス 80.0x70.0cm 愛知県美術館蔵

今回、所蔵を初めて知った作品。画面の多くを青が支配しています。タバコの煙が外の木に絡み付いているような不思議な絵です。

さらに隣りの部屋にはクレーの油彩と水彩、モディリアーニやエルンスト、サム・フランシスやモーリス・ルイスの抽象絵画などが並びます。

「青春のパリ 日本近代洋画が育った場所」としてフランス近代絵画の名品とフランスに縁の深い日本の洋画家・彫刻家の作品を合わせた部屋もよかったです。

ゴーギャン、 ピカソ、ボナール、マティス、デュフィ、藤田嗣治、梅原龍三郎、荻原守衛、高田博厚など

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ピエール・ボナール《子供と猫》1906年頃 油彩、カンヴァス 62.5x45.5cm 愛知県美術館蔵

この絵を見るといつも幸せな気分になりますね。和みます。猫好きな人にもたまらない絵でしょう。

最後の部屋は驚愕でした。「木村定三コレクション 熊谷守一」

入ると何と熊谷守一の作品だけが20点もずらりと並んでいました。特別展かと思いました。有名な《猫》や植物、風景など大満足の内容でした。木村定三コレクションの熊谷作品は200点を超えるとのことでこの10倍あるとは驚きです。全作品並んだ光景を是非見てみたいものです。

愛知県美術館は昨年、個人からの寄附金3億円でゴーギャンの油彩を購入したり、2011年には蟹江プロパンが寄付した2億円でレジェの油彩を購入したり恵まれた収集が続いてます。今年も良い作品がゲットできるといいなあ。

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2012年 よかった展覧会ベスト10 

久しぶりのアップです。昨年は、ブログというものをやっと始めてみました。拙い文章にお付き合いしていただけた方々有難うございました。2012年も素晴らしい展覧会が沢山ありました。2013年になってしまいましたが、昨年、私が見に行った展覧会を勝手にランキングしちゃいます。西洋美術に傾きがちなのはそれを多く見に行っているのでご了承くださいませ。あくまでも私の中でよかった展覧会です。

総合

第1位 セザンヌ パリとプロヴァンス 国立新美術館
第2位 ジャクソン・ポロック展 東京国立近代美術館
第3位 シャルダン展
第4位 リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝 国立新美術館
第5位 ぬぐ絵画 日本のヌード1880-1945 東京国立近代美術館
第6位 没後150年 歌川国芳展 森アーツセンターギャラリー
第7位 須田悦弘展 千葉市美術館
第8位 松井冬子展 世界中の子と友達になれる 横浜美術館
第9位 生誕100年 松本竣介展 世田谷美術館
第10位 象徴派 夢幻美の使徒たち-世紀末芸術の巨匠たち 岐阜県美術館



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第1位 セザンヌ展 パリとプロヴァンス 国立新美術館
これはとてもよくできた展覧会だったと思います。質と量どちらも素晴らしくパリとプロヴァンス、北と南という新たな興味深い視点、ジャス・ド・ブッファンの大広間の再現やアトリエの再現などと本当に面白かったです。静物画に描かれた皿や瓶、テーブルなど実物が展示してあったのにも大興奮しました。そして国内所蔵作品に甘えていない所も凄いなと思った点でした。この展覧会には日本一の9点というセザンヌコレクションを持つポーラ美術館からたった1点(しかもポーラのメインではない作品)、ブリヂストン美術館からは0点(共に所蔵館で企画展があり展示していたので貸出を断ったのでしょう)。過去のセザンヌ展では必ず代表的な出品作品として登場していたので驚きました。1999年に横浜美術館で開催されたセザンヌ展以来の、いやそれを超えると言っていいセザンヌ展でした。オルセー美術館から《りんごとオレンジ》、《首吊りの家、オーヴェール=シュル=オワーズ》が来ているだけでも凄いのですが、ずっと見たかった《青い花瓶》も来ていたのにはただ感動でした。

惜しかったのはキャプションにパリでの作品は青いライン、プロヴァンスでの作品にはオレンジのラインが引いてあったのですが、そのラインが細すぎてほとんど見えなかったこと。注意してキャプションの細いラインを見ないと分からなかったのは残念でした。またカタログの図版の色が絶句するほどの汚さで表紙も作りも美しいのにどうして...と思いました。


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第2位 ジャクソン・ポロック展 東京国立近代美術館
第2位、3位、4位は実は迷いました。似た順位かもしれません。ジャクソン・ポロックの作品は展覧会でいくつか見たことはありましたが、いつも1、2点といった感じでした。オークションで物凄い高額で取引されていますし、所蔵館の宝でしょうから借用は難しいだろうと思っていました。日本で開催されるとは驚きましたね。愛知県美術館で先に開幕し、東京展まで我慢できずにそちらも見に行きました。展示環境としては愛知県美術館の方が余裕があり天井も高くよかったです。アトリエ再現は東京展では展示室の外で縮小されていましたが、愛知県美術館は会場内で原寸再現、しかもそのアトリエから次の展示室の《インディアンレッドの地の壁画》が見えるのは感激でした。愛知展はポロックが事故にあった時に履いていた靴の片方が展示されていたりと東京展に比べると色々よかったです。


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第3位 シャルダン展-静寂の巨匠 三菱一号館美術館
シャルダン展を知った時、日本でやるなんて信じられないと驚きました。点数は38点と控え目でしたが、美しい作品ばかりで十分にシャルダンの魅力が伝わりました。大満足でした。こちらもポロック同様、遂に日本で実現という貴重な機会でした。


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第4位 リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝 国立新美術館
いわゆる引越展と言われるものですが、質はもちろん、その規模と展示に驚きの一言で、何でこれが日本で実現できたの??という気持ちも大きく4位に登場。日本の展覧会史上初という天井画の展示がされたバロック・サロンに入った時のおぉぉぉ!!!!という感動は忘れません。展覧会とは期間限定で幻の美術館として我々の前に登場するわけですが、リヒテンシュタインの展示はここは国立新美術館?と思ってしまう空間でした。ルーベンスの超大作を始めとする10点が並ぶルーベンス・ルームも息を呑む空間でした。《占いの結果を問うデキウス・ムス》は額がもう2周り大きかったら天井と床に付いてしまうくらい巨大でした。飛行機も額が入らず解体して乗せたとのことです。最もお気に入りはレンブラント《キューピッドとしゃぼん玉》でした。象牙のジョッキも見事だったなぁ。


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第5位 ぬぐ絵画 日本のヌード1880-1945 東京国立近代美術館
2011年秋から始まり、2012年に少しはみ出た展覧会でした。 日本の近代絵画のヌードに焦点を当てた展覧会は初めて見たかと思います。猥褻の定義が今と違い、黒田清輝《裸体婦人像》の下半身に布を巻いて展示したというエピソードや写実から抽象までヌード1つ取ってもこんなに様々な表現がされていたんだと改めて気づかされる展覧会でした。チラシを開くと熊谷守一の《裸婦》がでーんと刷られたポスターになっていたり、宣伝用のポスターやカタログもデザイナーの腕が光る洗練された素晴らしい物でした。


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第6位 没後150年 歌川国芳展 森アーツセンターギャラリー
過去最大規模と言われるだけあってこんな歌川国芳展初めてでした。全てを網羅の勢いで痒いところに手が届く?!展示でした。とにかく展示数が凄かったですね。状態もよかった。かっこいいものからかわいいものまでこれを見ればあなたも国芳博士といった大個展でした。浮世絵の知識とかなくても大変面白く見られました。


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第7位 須田悦弘展 千葉市美術館
閉幕一週間前にぎりぎり行けた展覧会です。行かなかったら後悔するところでした。いやー本当に面白かった。目立たない所に草花が生えている作品で有名な須田悦弘作品をまとめて見たのは初めてでした。いつも空間に隠れているような作品で近くで見ることはなかったのですが、今回至近距離で見ることができました。手先から自然を作り出すかのごとくよくできた草花でしたが、木彫に彩色をべったり施すのではなくいい具合に白く塗られ、木だというのがわかる花弁にただそっくりに作ってるだけじゃないんだと気づかされました。箱や小さな空間に入ってみるインスタレーションも不思議な世界で面白かったです。作品を探し回るのもとても面白かったです。監視員と2人の空間であれこれ探すのはちょっと恥ずかしかったりもしましたが...。また作家自ら千葉市美術館のコレクションから江戸時代の屏風、浮世絵を選んで自作と展示する「須田悦弘による江戸の美」もとてもよかったです。屏風から零れ落ちたように配置された花や巻物に描かれた雀たちの周りに木彫による米が散らばっていたのはユニークで思わず笑ってしまいました。面白く美しい展示でした。


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第8位 松井冬子展 世界中の子と友達になれる 横浜美術館 
圧巻でしたね。松井冬子作品の実物はこの展覧会まで片手の指で数えられるほどしか見たことがありませんでした。画集で多くの作品は知っているという感じでした。会場にはその画集で見た作品ばかりが揃っていてこれは現実的には中々難しいことなわけでそれが実現できてる空間に驚きました。作品が描かれてから年月があまり経っていなく所蔵者が何度も入れ替わっていないというのも大きいのでしょうか。もう何年もしたらこの展示は無理になってくるのではないしょうか。松井冬子展としてパーフェクトな個展だったと思います。会場も上手く使っていていい空間になっていたと思います。松井冬子の世界を歩くといった感覚がありました。髪の毛の描写がとてもいい作家だなと思います。髪の毛一本一本に魂が宿ってるような感じでした。今後の作品も楽しみな芸術家です。  


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第9位 生誕100年 松本竣介展 世田谷美術館
生誕100年展に相応しい個展で決定版と言ってよいのではないでしょうか。今後開催されるのはこれを基準に語られそうな質の高い内容でした。会場の構成上珍しく2Fから始まる展覧会でした。初期から晩年まで細かく網羅し、描かれた風景の場所もテーマごとに紹介されたり、とても丁寧な作りだったと思います。初期の人物や風景が重なり合うモンタージュのような風景から立てる自画像、ルソーを髣髴とさせる風景など教科書で見た有名な作品と出会えて嬉しかったです。俳優の星野源て松本竣介にそっくりだなと思った展覧会でもありました(笑)。何か映像化する時は彼以外にいないなと。


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第10位 象徴派 夢幻美の使徒たち-世紀末芸術の巨匠たち 岐阜県美術館

象徴派コレクションを多く持つ岐阜県美術館、新潟県立近代美術館、姫路市立美術館が各館の所蔵品にさらに外部から借用して3館を巡った展覧会。非常に見応えがありました。日本の象徴派コレクションの豊富さに驚かされました。印象派に比べるととっつきにくい印象がありますが、質の高い作品が揃っており、分かりやすい内容で絵画、版画、ポスター、ガラスなどと幅広く多くの人に興味を持ってもらえる内容だったと思います。海外から借用する展覧会は何かと大変ですが、国内所蔵品でもここまで魅力的な展覧会が開催できるので是非もっといろんな所で連発してほしいなと思いました。

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