美術展命の男のブログ

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カイユボット展 ブリヂストン美術館

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ブリヂストン美術館で開催されていた「カイユボット展」を見てきました。

2011年度に《ピアノを弾く若い男》を収蔵。ブリヂストン美術館開館60周年の2012年にお披露目されたのが記憶に新しい所です。日本にはそれまで、東京富士美術館に1点が所蔵されるのみだったので大ニュースでした。そして2013年に日本初のカイユボット展が開催されると発表され、大変驚いたのを覚えています。この画家を気になったことはあったものの、作品は個人蔵の物が多く、個展の開催は難しいだろうと思っており、まさかのニュースに嬉しさでいっぱいでした。

収蔵した作品を核として展覧会を企画したのかと思ったのですが、こんな短期間で準備はできないでしょうから展覧会の企画中に《ピアノを弾く若い男》を取得する機会に恵まれたのでしょうか。

カイユボットについて知っていた事は、裕福で印象派の画家たちの絵を購入して彼らを支えたことくらいで、都市風景と静物の構図が独特だなぁといったところでした。印象派の展覧会でも必ず並ぶ作家というわけではなく、たまに数点が含まれるといった感じで、今まで見た作品は20点いっていないかもしれません。

ポスター、チラシのデザインもお気に入りです。作品を引き立てるブルーが美しいです。

見たことのない作品ばかりが並ぶわけでどんな作品たちが来ているのか興味津々でした。

Ⅰ 自画像
Ⅱ 室内、肖像画
Ⅲ 近代都市パリの風景
Ⅳ イエール、ノルマンディー、プティ・ジュヌヴィリエ
Ⅴ 静物画
Ⅵ マルシャル・カイユボットの写真

で構成されていました。

カイユボットは5点しか自画像を残していないとのことですが、本展には3点も出品されていました。初期の若々しい作品(1872-78年頃)と印象派らしいタッチで描かれた堂々とした作品(1889年頃)、制作年が近いのに一気に老け込んで見える物(1889年頃)とそれぞれ異なる印象の物が並んでいて興味深かったです。

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《読書するウジェーヌ・ドーフレヌの肖像》 1878年 油彩、カンヴァス 100×81cm 個人蔵
第4回印象派展出品作

画家の母の従兄弟、叔父の肖像です。画像では黒いスーツになってしまっていますが、実物は濃く暗い紫のような青のような色彩で描かれていて素晴らしく美しい発色です。髪の生え際に近寄って見ると紫色!《昼食》1876年や、母親を描いた《マルシャル・カイユボットの肖像》1877年では、黒は黒と固有色が使われていますが、1878年のこの作品では黒が黒でなくなっています。ブリヂストン美術館所蔵の《ピアノを弾く若い男》は、彼が所蔵していたとのこと。残念ながら違う部屋で離れた展示でした。

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《ピアノを弾く若い男》 1876年 油彩、カンヴァス 81×116cm ブリヂストン美術館蔵
第2回印象派展出品作

よくこの作品を入手したなとただただ驚くばかりです。後の印象派特有の技法による田園風景などに比べ、パリの暮らしを描いた物は非常に評価が高く、オークションに出るととんでもなく高値が付きます。モデルは弟で音楽家のマルシャル。絵の中では横顔ですが、肖像写真を見ると顔の輪郭や鼻など特徴をよく捉えています。切手蒐集やヨット乗りなど共通の趣味を持ち、生涯行動を共にしたとても仲の良かった家族を登場させています。彼のパリの暮らしの一場面を切り取ったものであり、彼が初めて参加した第2回印象派展出品作であるのもこの作品を益々重要な物にしています。モネやルノワールのような筆触分割ではなく写実であり、固有色にも忠実で印象派と言うよりアカデミスム寄りな感じです。会場には同時代のほぼ同じ型とされるエラール社のピアノが展示されており、脚のフォルムや正面に書かれた筆記体のErardのロゴも同じで何度も見比べてしまいました。

この作品は、パリ8区ミロメニル通りにあった自邸で描かれた作品ですが、後年撮影されたスクリブ通り9番地の自宅でピアノを弾くマルシャルの写真も展示されており、ピアノの脚のフォルムが同じだったので絵の中に出てきたものと同じピアノかなと気になりました。写真の中でピアノに向かうマルシャルの後ろに彼らの母親が描かれた《マルシャル・カイユボット夫人の肖像》(※父親の名前もマルシャル)が掛けられており、その実物が本展に出品されているのが面白かったです。中々できない貴重な組み合わせだと思います。

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カミーユ・ピサロ《ポントワーズ、ライ麦畑とマチュランの丘》 1877年 油彩、カンヴァス 60.3×73.7cm 静岡県立美術館蔵

この作品が、カイユボット旧蔵だったと本展で初めて知りました。フランス国家に遺贈されるはずだったのが、この作品は却下されてしまったとのことです。受け入れられていたら、今日は、オルセー美術館の壁を飾っていたことでしょう。日本に来てくれてよかった。画像はくすんでいますが、実物のライ麦畑は黄金のごとく鮮やかな黄色で大好きな作品でしたが、カイユボットもこの作品を国家に遺贈すべき作品と判断していたのですね。

オルセー美術館に、カイユボットは7点しか所蔵されていません。遺贈するリストの中に自身の作品を含めなかったのが理由とされています。また裕福だったので絵を売る必要が無く、自身で作品を所蔵しており、彼の死後も裕福であった遺族が作品を手放す機会が少なく、世に出回らなかったこともあり、今日も個人蔵の物が多いようです。またそれが彼の評価を遅らせることにもなってしまいました。印象派の擁護者が画家でもあったという偏った考えが今日、見直され再評価が進んでいるとのこと。

《昼食》1876年、《室内、窓辺の女性》1880年、《室内、読む女性》1880年など登場人物が複数出てくる物がありますが、どの人物も視線を交わしていないのが不思議でした。都市の孤独にも目を向けていたのでしょうか。

Ⅲ 近代都市パリの風景

1853年、ジョルジュ=ウジェーヌ・オスマンはナポレオン3世からパリを含むセーヌ県知事に任命されます。
第二帝政までパリは中世の名残をとどめ、狭い路地の周辺に建物が密集していました。これを広々とした環状道路と放射状の道路によって一気に近代化を試みます。(解説より)

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《ヨーロッパ橋》 1876年 油彩、カンヴァス 124.7×180.6cm ジュネーヴ・プティ・パレ美術館蔵
第3回印象派展出品作

展覧会の白眉です。広角レンズで見たような構図と言われる通り、手前に来るほど鉄骨の開きがぐわっと大きくなり物凄い迫力でした。犬がしっぽを振りながらリズミカルに画面の下から入ってきたような臨場感があり、面白かったです。男女は視線を交わしてると思いきや、立ち位置が違うので男性は鉄道の方、女性は道路の方を見ていてここでも人の視線が交わされることがありません。富裕層と労働者が一緒に描かれていて都市の光と影がここにあります。でも重くなく明るい画面で新しい都市のあるがままを捉えた傑作です。

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《ヨーロッパ橋にて》 1876-77年 油彩、カンヴァス 105×131cm キンベル美術館

11月10日(日)までの期間限定展示だった作品。開幕直前に出品が決まったとホームページで発表されたのを見た時、この作品が来るのかぁ!と目を丸くしました。《ヨーロッパ橋》よりこちらの作品の方が好きだったりします。現代の我々から見ても驚くべき構図。モネもサン=ラザール駅の構内や鉄骨の構造物をいくつも描いていますが、この新しい建築素材だった鉄骨をこのような構図で捉えたのはカイユボットくらいではないでしょうか。鉄骨の間から見えているものはホームと信号機と機関車の煙だけです。《ヨーロッパ橋》と同じく鉄骨、それに異なる階層の人物が描かれた、パリ近代化の肖像そのものです。画像ではシルクハットにコートの2人の男性は黒い衣装という感じですが、実物では画面中央寄りの人物の帽子、衣装は濃く暗い青が使われ、左端の画面の外へ歩いて行っている男性の服は紫がかった色をしていました。奥に見えるホームの屋根や鉄骨は灰色のような水色のような色で描かれていました。離れて見ると黒い衣装に灰色の鉄骨という絵ですが、このような写実ながら固有色ではない色使いによって重くなく明るく美しい画面になっています。カイユボットの青、紫、灰色は本当に美しい。

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《ヨーロッパ橋にて(習作)》 1876年 油彩、カンヴァス 64.7×81cm 個人蔵
※参考画像

2002年クリスティーズオークション、ニューヨークに出た習作
予想落札価格 $2,500,000 - $3,500,000 (1$=124円換算 3億1000万~4億3400万円)
落札価格 $4,409,500 (約5億4677万円)

カイユボットの作品で一般的に最も有名な作品と言ったら《パリの通り、雨》でしょうか。その作品の習作がマルモッタン・モネ美術館から来ていました。シカゴ美術研究所蔵の完成作はさすがに借りられなかったかぁ。

本展に、第2回印象派展(2点)、第3回(3点)、第4回(4点)、第5回(3点)、第7回(1点)と参加した全ての回の印象派展出品作が13点も含まれていたのは驚異でした。

第2回、4回、7回印象派展の当時のカタログも展示されていました。この会場に並んでいる作品が載っているのを発見した時は、時空を超えて今ここにあることが何だか不思議でした。

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《見下ろした大通り》 1880年 油彩、カンヴァス 65×54cm 個人蔵
第7回印象派展出品作

とっても斬新な構図。ここまで真上に近い俯瞰で描くなんて他の印象派の作家たちはやっていないと思います。ドガが踊り子を客席から俯瞰で捉えたりしていますが、ここまできつくはないかなと。ボナールやヴュイヤールが都市の情景をこのような俯瞰で描いたものがありますが、彼は先取りしていたんですね。

Ⅳ イエール、ノルマンディー、プティ・ジュヌヴィリエ

パリの街中だった展示室が、次の展示室へ入ると一気に緑と水の風景に包まれます。

印象派の画家たちはあちこち様々な場所を描きましたが、カイユボットはほとんど限定的な場所ばかり描いていたとか。パリでは8区、9区を中心に描き、自然豊かな風景画もある決まった地域でした。カイユボット家の夏の別荘があったイエール、それからノルマンディ、プティ・ジュヌヴィリエなど。

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《マルリーの機械》 1875年頃 油彩、板 27×34cm マルケット大学ハガーティ美術館蔵

画風が確立される前の最初期の作品は冒頭の自画像1点と、この作品だけでした。どんな画風の変化があったのか展覧会で知りたかったので、貴重な1点だったと思います。後の鮮やかな画面とは違い、落ち着いた色で印象派らしいラフな筆の置き方の作品でした。マルリーの機械とはセーヌ川の水を高台に引き揚げ、水道橋を通ってヴェルサイユ宮殿に水を送っていた給水施設とのこと。

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アルフレッド・シスレー《マルリーの堰》1876年頃 油彩、カンヴァス 46.5×61.8cm ボストン美術館蔵
※参考画像

東京富士美術館で開催されている「光の賛歌 印象派展」にもシスレーが描いた《マルリーの堰》が出品されていました。シスレーは上流側、カイユボットは下流側から。同時期に開催されている展覧会でこういう作品を見つけると嬉しくなります。

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《ジュヌヴィリエの平原、黄色の丘》 1884年 油彩、カンヴァス 65.9×81.7cm メルボルン国立ヴィクトリア美術館蔵

2008年、クリスティーズオークション、ロンドンに登場し、2011年にメルボルン国立ヴィクトリア美術館に遺贈された作品です。

予想落札価格 £280,000 - £350,000 (1£=210円換算 約5880万~7350万円)
落札価格 £916,500 (約1億9200万円)

ヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵の同タイトルの似た画面の作品と隣同士で展示されていました。黄色の絨毯といった感じで本当に綺麗でした。自然を捉えた画面は、都市の印象派のカイユボットと印象が全く異なります。モネの影響が顕著で彼の作品と見間違うような作品もありました。印象派に忠実だったモネとシスレー、印象派に疑問を持ち一度離れたルノワール、点描にもチャレンジしたピサロなど印象派画家たちにも様々ありますが、カイユボットは印象派らしくなかったのがどんどん印象派そのものになっていく珍しいケースだなと思いました。ある時はモネのようであったり、《樹木の下で横たわるマグロワール親父》の大きな筆触の鮮やかな画面はギュスターヴ・ロワゾーのようでもありました。

Ⅴ 静物画

カイユボットの静物画も独特な魅力を持つジャンルです。何と言っても構図が独特。

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《鶏と猟鳥の陳列》 1882年頃 油彩、カンヴァス 個人蔵

この絵を家に飾りたい人いるのかな?(笑)。台に鶏が並ぶ平行線と吊るされた鳥と兎の垂直線が交じり合う衝撃?の絵です。モネやルノワールもジビエを描いていますが、テーブルに鳥くらいでここまでがっつりお肉屋さんみたいな絵は見たことがありません。自分で並べるのは考えにくいので店頭で見た光景を描いたものなのでしょうか。カイユボットの作品には豚の頭と何かの舌のようなものが吊るされただけの絵もあったりして結構衝撃的です。西洋美術史には、レンブラントの《屠殺された牛》だったりもっと衝撃的なものがあります。印象派の画家たちはこういった物にほぼ手を出していないのでカイユボットは動物の死体というジャンルを描いた珍しいメンバーということになります。

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《4つの花瓶の菊》 1893年 油彩、カンヴァス 個人蔵

東洋風の花瓶に菊が生けられています。カイユボット作品にジャポニスムの影響は見られないようなので興味を示さなかったのかなと思ったのですが、この作品は流行下で身近に溢れていたものを描いたのでしょうか。斜めになったテーブルの端に適当に花瓶を並べたようで何だか凄く不安定な構図に見えます(汗)。花で埋め尽くされた4面のカンヴァスの《ひな菊の花壇》は、都市の印象派のあのカイユボットのイメージとは随分とかけ離れていて誰の作品かわからないほどでした。モネの菊で満たされた作品に影響を受けたのでしょうか。直接的ではないものの、ジャポニスムの影響を遠回しに受けていたかもしれませんね。

Ⅵ マルシャル・カイユボットの写真

弟のマルシャル・カイユボットが撮った写真は、会場全体に分散しての展示。本展での写真の展示は展覧会を何倍も面白い物にしていたと思います。家族や親戚、パリの街並みや川辺のヨットなど作品と見事リンクしていて絵画だけ並べた展覧会では味わえない濃い内容になっていたと思います。日本初のカイユボットを紹介する展覧会として文句のつけようのない十分すぎる素晴らしい展覧会だったと思います。


近年、再評価が進んでいるというカイユボットの価格は凄い!?※本展の出品作品ではありません。

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《バルコニーの男、オスマン大通り》 1880年 油彩、カンヴァス 116.5x89.5cm 個人蔵
第7回印象派展出品作

2000年 クリスティーズオークション、ニューヨーク
予想落札価格 $6,000,000 - $8,000,000 (1$=108円換算 6億4800万~8億6400万円)
落札価格 $14,306,000 (15億4500万円!!!)

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《アルジャントゥイユの橋とセーヌ川》 1883年頃  油彩、カンヴァス 65.5x81.6cm 個人蔵

2000年 クリスティーズオークション、ニューヨーク
予想落札価格 $8,000,000 - $12,000,000 (1$=97円換算 7億7600万~11億6400万円)
落札価格 $8,482,500 (8億2280万円)
      ↓
2011年 サザビーズオークション、ニューヨーク
予想落札価格 $9,000,000 - $12,000,000 (1$=78円換算 7億200万~9億3600万円)
落札価格 $18,002,500 (14億400万円)

円高なので一見、幅が大きくありませんが、1000万ドル近く高く取引されています。

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《室内にいる若い女性の肖像(マダムHの肖像)》 1877年頃 油彩、カンヴァス  81x65cm 個人蔵
第4回印象派展出品作

2011年 サザビーズオークション、ロンドン
予想落札価格 £1,500,000 - £2,000,000  (1£=200円換算 3億~6億円)
落札価格 £1,688,000 (3億3760万円)

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《イエールのカイユボット家の庭園》 1875年 油彩、カンヴァス 65x92cm 個人蔵

2005年 クリスティーズオークション、ニューヨーク
予想落札価格 $2,000,000 - $3,000,000  (1$=119円換算 2億3800万~3億5700万円)
落札価格 $1,808,000  (2億1515万円)

どこか物哀しげな雰囲気が。

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《ケーキ》 1881年 油彩、カンヴァス 54.5x73.5cm 個人蔵

2003年 クリスティーズオークション、ニューヨーク
予想落札価格 $800,000 - $1,200,000 (1$=118円換算 9440万~1億4160万円)
落札価格 $1,351,500  (1億5947万円)

美味しそう!今回の展覧会には静物画はジビエと花が出品されていましたが、カイユボットは美味しそうな果物や料理を画面に集結させるのが上手い!ボストン美術館の《店先の果物》なんかも是非見たかったですね。

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《ヴィレ・シュール・メールの別荘》 1881年 油彩、カンヴァス 64.8×81.3cm 個人蔵

2009年 クリスティーズオークション、ニューヨーク
予想落札価格 $700,000 - $1,000,000 (1$=82円換算 5740万~8200万円)
落札価格 $902,500  (7400万円)

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《オードブル》 1881年 油彩、カンヴァス 24.4x54.4cm 個人蔵

2009年 クリスティーズオークション、ニューヨーク
予想落札価格 $350,000 - $450,000 (1$=97円換算 3395万~4365万円)
落札価格 $530,500 (5145万円)

お洒落すぎ!レシピ本の表紙に使えそうな勢いです。

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《トゥルーヴィルの庭》 1882年 油彩、カンヴァス 65×81.5cm 個人蔵

2011年 サザビーズオークション、ニューヨーク
予想落札価格 $250,000 - $350,000 (1$=78円換算 1950万~2730万円)
落札価格 $338,500 (2640万円)

都市を描いた力作は、やはりとんでもない高値で取引されています。《アルジャントゥイユの橋とセーヌ川》は、都市風景ではありませんが、見ての通り名品ですから高値が付くのは当然です。画業の後半に描かれた緑豊かな自然の風景画は意外とお安く数千万~1億ほどで取引される物もあります。当たり前かもしれませんが、タッチがラフになるほど評価額も控えめ。今後どんどん価格が高騰していくのでしょうか。

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モネ、風景を見る眼 ポーラ美術館&岡田美術館 箱根

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箱根の美術館へ行ってきました。

ポーラ美術館で開催されていた、ポーラ美術館×国立西洋美術館共同企画「モネ、風景をみる眼」から。両館は日本におけるモネコレクションの数で1位と2位の座にいます。ポーラ美術館19点(油彩19点)と国立西洋美術館17点(油彩15点(内2点は寄託品)、素描2点)。
このコレクションを一緒に展示したら凄いだろうなと妄想したことがあったので、今回の展覧会の開催を知った時は実現するんだととても驚きました。

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「モネは眼にすぎない、しかし何と素晴らしき眼なのか」

セザンヌのこの言葉は、生涯、戸外の光の表現を追求し続けた画家モネにもっともふさわしい賛辞ではないでしょうか。しかし彼の眼は、自然の風景から受け取る感覚的で瞬間的な印象を捉えていただけではありません。

「モネ、風景をみる眼~19世紀フランス風景画の革新」展は、モネが風景をどのようにとらえ、どう表現したのか、そして彼の長い画業の中で、彼の眼はどう深化したのか。そうしたモネの眼の軌跡をたどる展覧会です。

日本最大のモネ・コレクションを誇るポーラ美術館と国立西洋美術館のモネ作品計35点を中心に、マネからピカソまで95点を展示。他の作家と比較しながらモネの表現の独自性を明らかにします。

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解説より。

両館のモネコレクションは計36点ですが、ポーラ美術館では国立西洋美術館所蔵の大作《睡蓮》が出品されず、35点の構成。国立西洋美術館ではポーラ美術館所蔵の《睡蓮の池》が出品されず、こちらも35点での構成になります。

1.現代風景のフレーミング
2.光のマティエール
3.反映と反復
4.空間の深みへ
5.石と水の幻影

と5章に分けて展示されていました。ただ時代順に作品を並べるのではなく、同テーマや似た構図のものを隣りに並べて比較することができ、それぞれの所蔵館での展示では見ることができない工夫された展示が面白かったです。

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左:クロード・モネ 《舟遊び》 1887年 油彩、カンヴァス 145.5x133.5cm 国立西洋美術館蔵(松方コレクション)
右:クロード・モネ 《バラ色のボート》 1890年 油彩、カンヴァス 135.3x176.5cm ポーラ美術館蔵

展覧会のポスターやチラシに使われていたボートの作品は、冒頭に象徴的に飾られていました。国立西洋美術館の作品は、ボートの人物や水面に視線を投げかけていますが、ポーラ美術館の作品はボートだけでなく水中になびく水草まで描いています。肉眼では見えても絵にするのは大変なチャレンジですが、モネは見事にこの表現をこなしています。

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鈴木春信 《舟中蓮とる二美人》 東京国立博物館蔵
※本展には出品されていません。

ボートが画面の端で切れていたり、俯瞰的な構図は浮世絵の影響とも言われていますが、東京国立博物館に似た構図の物が所蔵されているので一緒に見ることができたら面白そうです。松方コレクションの浮世絵が東京国立博物館に所蔵されていますがこの作品は違うかな?

モネのボート2点が並ぶという情報を耳にした時、国内にもう1点あったという記憶が蘇りました。国立西洋美術館の何十年も昔の白黒の作品集にボートの絵が載っており、寄託と書かれていたのです。京都、個人蔵と記載してあったと思い、とっくに日本にはないのだろうと忘れていたのですが、調べてみるとびっくり!

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クロード・モネ 《青いボート》 1887年 油彩、カンヴァス 109×129cm 京都信用金庫蔵
※本展には出品されていません。

京都信用金庫が所蔵しているではありませんか。国立西洋美術館の作品と似ていますが、よりボートに接近して画面の下部にボート、上部に水面を大きくとった構図になっています。

2008年11月11日から14日のたった4日間、京都信用金庫で「創立85周年記念 京都信用金庫絵画展-西洋美術史を辿って-」と題してターナー、マネ、ドガ、モネ、ルノワール、セザンヌ、ゴーギャン、ゴッホ、マティス、ピカソ、ユトリロ、シャガール、ムンクなど約30点の西洋絵画が並んだと今年になって知りました。知っていたら行ったのに!!預金してる人だけしか見られないとかそんなことないですよね??関西の方にはこのコレクションの存在は当たり前の情報なのでしょうか。非常に驚いたニュースでした。このモネの作品以外どんなコレクションなのか全く見当もつきません。知りたい!!今年は創立90周年ですけど何もないみたいですね(汗)

ひろしま美術館は、広島銀行の創立100周年記念事業として設立されたものですが、京都にもできたらいいなー(夢)。福岡にあった、福岡シティ銀行が1999年に、ジャスパージョーンズなどのコレクション10点を約50億円でサンフランシスコ近代美術館に売却したというニュースがありましたが、そのようなことがないよう頑張ってほしいです。

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左:クロード・モネ 《グランド・ジャット島》 1878年 油彩、カンヴァス 56.3×74.5cm ポーラ美術館蔵
右:ポール・セザンヌ 《ポントワーズの橋と堰》 1881年 油彩、カンヴァス 59.1×72.1cm 国立西洋美術館蔵

自然に溢れた風景画ですが、よく見るとモネの遠景には工場の煙突、セザンヌの中景には鉄道橋が描かれ、近代化の一部も写しとった作品になります。構図が似ているのはもちろん、モネは印象派の素早いタッチで軽やかに、セザンヌは規則正しい筆致で絵の具を置いていくという違いを見比べるのも面白いです。

セザンヌ《ポントワーズの橋と堰》は国立西洋美術館に昨年、収蔵され今年の1月にお披露目されたばかりなのに7月には貸出先で展示されるとは異例中の異例の事ではないでしょうか。この展覧会が1年前に開かれていたら叶わなかった競演です。

他にもポーラ美術館の油彩《ジヴェルニーの積みわら》と国立西洋美術館の素描《積みわら》の展示やロンドンシリーズからポーラ美術館の《国会議事堂、バラ色のシンフォニー》と国立西洋美術館の《ウォータールー橋、ロンドン》、《チャリング・クロス橋、ロンドン》などと胸を躍らせる組み合わせの展示が実現していました。

どの章も着眼点が素晴らしかったです。特に、第5章の石と水の幻影は、モネの「石」になんて気を配ったことがありませんでしたので興味深い章でした。ルーアン大聖堂、 国会議事堂、ウォータールー橋など言われてみれば確かに石の建造物です。強い光や霧で満たされ「石」としての物質感はなく、石、水、光、空気全てが溶け込んでいます。

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クロード・モネ
左:《霧のルーアン大聖堂》 1893年 油彩、カンヴァス 106×73cm 個人蔵 (ユニマット美術館旧蔵)
中央:《ルーアン大聖堂、午後の効果》 1893年 油彩、カンヴァス 106x73cm 個人蔵 
右《ルーアン大聖堂》 1892年 油彩、カンヴァス 100.4x65.4cm ポーラ美術館蔵
※左、中央の作品は参考画像です。本展にはポーラ美術館蔵の作品のみが展示されています。

ポーラ美術館の《ルーアン大聖堂》の美しいこと。生クリームでボテボテ描かれたような質感がいいです。夜明けにも見えますが、夕方6時頃の光とのこと。

もしかしたら日本で競演が見られたかもしれない作品たちを並べてみました。左の作品は、2009年に閉館した青山ユニマット美術館旧蔵の作品です。中央の作品は、旧松方コレクションの作品です。松方コレクションに入る前は、デンマークのハンセン・コレクション蔵でした。国立西洋美術館に収蔵されているエドゥアール・マネ《ブラン氏の肖像》もハンセン・コレクションにあり、他の印象派作品たちと松方幸次郎氏が購入し、日本に入ってきました。1924年に取得しています。ところが、1927年に世界恐慌の影響で川崎造船所の経営が破綻、1928年には十五銀行の担保となり、売られてしまいました。(涙)。

蒐集時期が変わり、ロダン美術館に預けられ、フランス政府に押収されていたら国立西洋美術館に来ていたかも??ロンドンに保管されていたら火災で焼失してしまっていただろうし怖いですね。コレクションが世界のどこにあったかでその後の運命が左右されるとは...。

マネ《ブラン氏の肖像》は、戦後にフランス政府に押収され、後に国立西洋美術館のできるきっかけとなった作品たちの1点ではなく、松方幸次郎氏の遺族が所蔵し、ブリヂストン美術館に寄託されていましたが、1984年に国立西洋美術館に寄贈されました。

ルーアン大聖堂シリーズはどれも素晴らしい物ばかりですが、旧松方コレクションのこの作品も超名品ではないでしょうか。午後の強い光を浴びてくっきりと浮かび上がる大聖堂シリーズ中の顔といって作品。この作品は、1995年、テキスタイルメーカー・アブラハムグループのオーナーであるグスタフ・ズムテッグのコレクションからクリスティーズオークション・ロンドンの競売に登場します。約11億円で落札されました。£7,591,500 ($12,036,323)(1ポンド=140円、1ドル=90円)

33点あるルーアン大聖堂のうち少なくとも20点は美術館に収蔵されています。オルセー美術館、マルモッタン美術館、メトロポリタン美術館、ワシントン・ナショナル・ギャラリー、メトロポリタン美術館、ボストン美術館、プーシキン美術館など世界の錚々たる美術館が所蔵する中、日本では唯一、ポーラ美術館が所蔵。すんごいことです。

ブルー、白、ピンクでフランス国旗のようであります。これらが日本で揃っていたら...。

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クロード・モネ 《ルーアン大聖堂》 1892年 油彩、カンヴァス 100x65cm 個人蔵
※参考画像

2000年にサザビーズオークションに午後の早い時間を描いた作品が登場しました。予想落札価格が約16億~21億円のところ、26億円!!($24,205,750)で落札されています。(1$=108円)。1995年の11億円が超お得に見える。

また、モネが妻アリスと旅をしたヴェネツィアを描いたポーラ美術館の《サルーテ運河》に合わせ、国立西洋美術館のアンリ・マルタン《ヴェネツィアの大運河》やホイッスラーの版画なども並び立体的に見せてくれていました。

全く同じ展覧会をポーラ美術館→国立西洋美術館へ巡回するのではなく、各館の特徴を持たせた展示というのも面白い点です。ポーラ美術館では「モネとガレ」、「自然の中でみる印象派」。ガラス工芸が特集展示されており、ガラス工芸の風景表現を見ることができました。また自然の中にある美術館という点も生かし、美術館の周りの遊歩道を散策できるようになっていました。国立西洋美術館ではカタログに掲載されない絵画や版画、出版物も参考資料として展示され、時代背景も理解できる要素が加味される国立西洋美術館ならではの展示になっているとのこと。国立西洋美術館にコレクション以外のモネが沢山展示されるのは1982年のモネ展以来のことです。

全く違うコレクションなのに様々な点で呼応し合っている不思議な縁があるコレクションだと思いました。

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ポーラ美術館の前に岡田美術館へ行きました。開館まで公式ホームページが簡素で情報があまり入って来ず、一体どんな美術館なのだろうととても謎でした。箱根に日本美術を中心に集めた最大級の美術館が出来るということはわかっていましたが、さてさて。場所は箱根ホテル小涌園の道路を挟んだすぐの所で、バス停を降りて10秒で着く素晴らしい立地でした。

岡田美術館は、パチンコ・スロット製造をする株式会社ユニバーサル・エンターテイメント取締役会長である岡田和生氏が収集した日本・中国・朝鮮を中心とする古代から現代までの美術品が展示されています。10月4日に開館しました。

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美術館の正面には巨大な《風神雷神図》の壁画あり、ガラス越しに外から見えています。福井江太郎による12m×30mのとてつもなく巨大な壁画です。外に足湯があり、ここでお茶やお弁当を食べながら眺めることができます。画像に写ってるのは池で足湯ではありません。画像の手前に足湯があります。

館内に入ってロッカーに荷物を預けていざ。入場料は2800円です!!(笑)。ぶっとびー。観光地は何かと金額が高めに設定されていますが、箱根ラリック美術館1500円、箱根彫刻の森美術館1600円、箱根では一番高いと思われるポーラ美術館の1800円を大幅に上回ります。岡田美術館は小中高生1800円です(汗)。家族揃って入るのはちょっと勇気がいりますね。

携帯電話やカメラの持ち込みはNGです。驚きなのが金属探知機のゲートをくぐらされます。緊張した~。美術館では珍しいことにエスカレーターホールに時計が設置されているので腕時計を忘れた方も、時計代わりに携帯電話を見られる方もなくても安心です。ただ広いので、連れとはぐれたら連絡がつかないので探すのが大変かも。

1階 中国陶磁・青銅器 朝鮮陶磁
2階 日本陶磁と日本絵画の名品
3階 日本絵画Ⅰ -屏風を中心に-
4階 日本絵画Ⅱ -書跡、中国・朝鮮の美術とともに-
5階 仏教美術

埴輪から東山魁夷まで時代もジャンルも広く集められていました。私が行った時は、展示替えの直前だったようですが、常時約350点ほど展示されているとのこと。1階の埴輪、青銅器から始まって2階までコレクションの中心である日本・中国・韓国のやきものがどこまでも続きます。やきものの特別展のようです。

一番感動したのは、3階の屏風が並ぶ展示室です。部屋へ入ると暗い展示室の左右に眩しいほどに黄金に輝く屏風たちが。作者がはっきりしないものでもよく描かれた非常に質の高い物ばかりが並び、圧巻でした。長谷川派の浮舟図屏風は根津美術館にも同じ構図の作品があったなぁ。酒井抱一、曽我蕭白もあったりと驚きの連続です。照明も素晴らしい美術館だと思いました。

3階もそうでしたが4階は、誰もが知るようなポピュラーな芸術家たちの作品のオンパレードといった感じでした。俵屋宗達下絵 本阿弥光悦書 《花卉に蝶摺絵新古今集和歌巻》、尾形光琳《雪松群禽図屏風》など東京国立博物館もびっくりな物が。

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尾形光琳 《雪松群禽図屏風》 江戸時代前期 18世紀初頭 紙本金地着色 2曲1隻 156.0×171.6cm

尾形光琳《雪松群禽図屏風》は、美術館誕生のきっかけとなった最初の蒐集品だそうです。伊藤若冲の精細に描かれた鶏、墨で描かれたユーモアな鶏も展示されていました。丸山応挙の犬も可愛かったぁ。喜多川歌麿や葛飾北斎の肉筆の美人図、浮世絵では葛飾北斎《神奈川沖浪裏》、《凱風快晴》も。菱田春草、横山大観、上村松園、速水御舟らの近代日本画もコレクションしています。

もうここまででへとへと。まだ5階があるぞぉ~と上がるとあれ?展示室がない。レクチャーホールのような何もないスペースが広がっています。そこにドアを発見し、ここかぁと入るとありました。最後の部屋、仏教美術の展示室です。ここは今までの部屋に比べるとこじんまりとした空間でちょっと安心しつつなぜか残念な気も(笑) 。
重要文化財《木造薬師如来坐像》 平安時代、《両界曼荼羅図》 平安末期~鎌倉初期など祈りの世界の空間です。本当、この部屋も博物館に来たみたいでした。

5階から建物の裏手の素敵な紅葉と池が美しい庭を見下ろすことができました。時間がなかったので見に行きませんでしたが、次は回ってみたいです。

想像をはるかに超える広さでした。ワンフロアでもかなりの広さですが、上に広いこと広いこと。全5階、建物の延べ床面積は約7,700m2で、展示面積は約5,000㎡です。国立新美術館の企画展示室は1階も2階も2,000㎡なので両方足してもそれより広いんです(汗)。2階の展示室は1200㎡で、仕切りがなくもっとも広々とした展示室なのですが、Bunkamuraザ・ミュージアム総床面積837㎡が余裕でスポッと入る空間でした(笑)。関西ですと、国立国際美術館の展示面積は4,100㎡、京都市美術館本館の24室が5,039㎡など。あれだけの展示面積に匹敵するのかと比べると頭がくらくら。展示室は展示ケースの外は照明がかなり落としてあり、とにかく暗いです。監視員がいないので誰もいなくなるとちょっと怖いくらいです。何も展示がない隅の方はただの暗がりなのでちょっと不気味でした。絨毯が敷いてあり、誰もいないと無音&暗いので何だかとても不安になる(笑)。

ロビーとエスカレーター、エレベーターホールは美術館というか新しくできたどこかの企業のフロアみたいでした。ははは。

これらのコレクションがたった13~14年で集められたとはとても信じ難いほどに凄いものでした。建物からコレクションまで想像していたものを大きく裏切られるあっぱれな美術館でした。既に完成系といっていいのでしょうが、今後のコレクションの成長も楽しみです。箱根最大級と謳われていましたが、その言葉に嘘はなかったです。スケールが凄くて文面では、とても伝えきれません。たっぷり時間をとって見たい美術館でした。

柵などまだ工事してる所があり、食の複合施設「箱根蔵町」のオープンもまだでした。2014年初旬以降順次オープン予定とのこと。箱根に名所がまた1つ増えました。西洋美術のポーラ美術館、日本美術の岡田美術館と言われるようになるのでしょうか。今後の活躍に期待です。

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